初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました
(考えろ、考えろ)

焦って頭が回らない。


『彼女は皇太子殿下のお気に入り』

マダムはシャルの事をそう言っていた。
俺が彼女の幼馴染みで、元婚約者だと知れば、
この状況から逃げられるかもしれない。


「クリスティンが喋った言葉はもう聞かせなくていい、吐き気がする」

「……」

「何で殺したかと、聞いたのは確認だ
 お前のしたことは報告はされていたが、お前の口から聞きたかった」

「……」

「今度はだんまりか、 まぁいいさ
 それにしても侍女長を生かしたのは甘かったな
 あの女と一緒に始末していたら、公爵にお前だと、ばれなかったのにな」

始末、そう言う男の口調が恐ろしかった。
あの時は自分の仕出かした事に怖くなって、
隠す事と逃げる事しか考えられなかった。

気を失っていた侍女長を殺さなかった俺を、
この男は甘いと言った。
それは自分が甘くないと言うことだ。


目隠しされていないことに急に不安になった。
さっき、殿下と呟いた事も。
俺を帰すつもりなら、身元が判りそうな言葉を
呟いたりしない。


自分の身元を知られたら。
こいつは相手を、生かしたままにしない。
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