初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました
しばらく男は何も言わなかった。

沈黙が怖い……
シャルの名前を出すタイミングが難しい。


「歌ってくれたお返しに、お前が知るべき話を
教えてやろうと、思う」


教えないでくれと、願った。
聞かされたら、それだけで消されてしまう話
かもしれない。


「お前のその甘さが実家の、ブライトン伯爵家を没落させることになった」


没落? この男の言ってる意味がわからない。
うちは確かに領地に引っ込んだが、俺がシャルと復縁したら、社交界にも戻って来るはずだ。


「没落なんて大げさ…」

「クリスティンの父親がお前に追手を差し向け
なかったのは、勝手に堕ちて行くからだ
 ……お前など、追い詰めても仕方ない
 だが公爵はお前を許した訳じゃない
 筆頭公爵家のプライドをかけて、お前の実家を断絶させることにしたんだ」


俺が何も言えないので、男が続ける。

「下の兄貴は、王宮文官の職を失った
 試験を優秀な成績で合格して上級文官になった途端、失職だ
 ブライトンの当主と嫡男は公爵家に呼び出され王都に二度と戻らないことを誓わされた」

「何で!何でお前にそんな事がわかる!」


うちが王都を引き払ったのは、シャルの父親に
気を遣ってだと、思っていた。
それなのに、クリスティンの父親に脅されて?
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