初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました
「ロティ、君の方は?
 彼と話せた?」

エドガー様が仰った彼と言うのは、ギリアンの事です。
今回の帰国の個人的な目的は、ギリアンに謝罪する事でした。


私はギリアンに謝りたかったのです。
『貴方の夢を奪ってごめんなさい』と。

ギリアンの夢は薬師となり、実家から独立する事でした。
それなのにエドガー様に嫁ぐ私の代わりに、
ガルテン伯爵家と養子縁組をしてくれました。


ガルテン領を治めながら薬師になる事は無理です。
ひとり娘なのに、自分の我を通してしまった事がとても心苦しくて。


昨日の夕食後話せるのは今夜しかないと、私室へ戻ろうとしたギリアンに声をかけました。
すると、彼は遊戯室で話しましょうと、メイドに蜂蜜入りの紅茶を運ぶよう頼んでくれました。


謝罪する私にギリアンは小さく手を振りました。


「とんでもない
 ガルテンを継げて、私の夢は前進したのです」

「貴方の夢は薬師になる事でしょう?」

「一薬師では叶えられなかった事が伯爵になる事で叶うのです
 ガルテン伯爵家が持つ金と人脈です」

金と人脈。
ギリアンの口から清廉な彼には似合わない言葉が出たので、私は驚きました。


「ガルテンには、他領には存在しない薬草が自生している事をご存知ですか?
 それも多種類の薬草ですよ!」
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