初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました
ギリアンは珍しくにっこりとしました。
その笑顔は、いつも大人びた微笑みしかしない彼が初めて見せるものでした。


「ごめんなさい
 領地内の事はある程度勉強したのだけれど、
植物には疎くて」

「謝らないでください
 私が薬師に興味を持ったのは、そのガルテンにしか群生していない薬草を知った事からです!」


ガルテンの薬草?
私の脳裏に、以前エドガー様から聞いたお話が
浮かびました。


「小さな頃から、私はガルテン領に呼んでいただいても、スカーレットや義姉上と一緒に遊ぶのは苦手だった
 それでよく1人で、領館の森や庭を散策して
いたんです」

こんなにニコニコして話してくれるギリアンは初めてです。


上機嫌なギリアンの話によると。

いつもの様に森へ行ったら、初めて見る虫がいて足を刺されてしまったそうです。
みるみる間に、傷口が熱を持って腫れてきて、
動けなくなったところを、館の庭師が発見して
くれて。
『その虫でしたら、これを飲んでみてください』と、渡されて飲んだ煎じ薬は苦くてたまらなかったけれど、時が経つにつれ熱や腫れも沈静化した
そうです。

『昔からこのガルテンでは、怪我や病気を草で 治すのですよ』

誇らしげな庭師にそう言われて、それ以降こちらの領に遊びに来ると、庭師を捕まえて色々教えて貰ったりしていたのだとか。


そういえば昔から彼はいつも庭で庭師と話し込んでいました。
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