初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました
自分でも嫌な女と、思います。
けれど、そうして私はちゃんとノーマン様を捨てられる。


『初恋を捨てるチャンス』
ノーマン様はそう言ったのです。

今でも忘れていません。
婚約者の私に、秘密めいた様子で
愉しそうに囁く彼を。
溜まった仕事を片付ける前に立ち寄って、
一方的に夏の予定を告げた彼を。

 
私の涙を拭いて、私の手に残したのは、
私が彼を想い刺繍して、贈ったハンカチでした。
彼にとっては、私の想いなど特に意味のないものなのだと、悟った瞬間でした。

好きの反対は無関心だと、よく云われていますが
私はやり返してやりたかったのです。

どん底に居る彼を傷つけてやりたかった。
『会いに来て、話を聞かせて、それが何になるの?』と
話し終わった彼に微笑みながら、告げてやりたかった。


半年後に行われる結婚式のことを、どのタイミングで伝えたら、彼は一番堪えるのかしら?


昼食を食べる前に
溜まった仕事を片付けるように
彼を片付けようと、思いました。

私を利用して浮上しようとする彼を
微笑みながら、自分の手で沈めようと
思っていたのに。


彼が私を傷つけたように
私は彼を傷つけたかった。
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