初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました
「ノーマン様がいらっしゃらないのは、私の企みに気付かれたのかもしれませんね」

「……」

「呆れられましたでしょ、嫌な女で」

苦笑いした私に、エドガー様は優しい眼差しを
くださいました。


「あいつは本当に馬鹿だ
 君を手放すなんて、俺には無理だ」

「こんな私の事をそんな風に仰ってくださる貴方の方が、馬鹿です」

憎まれ口をきいた私に、エドガー様は柔らかく微笑んで手を伸ばして、私の手に優しく触れてくれました。


その時、彼の手の甲に引っ掻き傷が出来ているのに気付きました。

「大変、消毒しないと」

「大した事ないよ、大丈夫だから」

「その傷どうなさいましたの?」

「躾の出来ていない猫に引っ掻かれた」

「猫に?王宮にいました?」

「殿下には相手にするなと言われたけれど、躾
ないと誰かが怪我してからでは、遅いだろう?」

「誰にも躾られないのが猫の魅力ですのに?
 猫はどうしました?」

「何処かに行ったと思う
 君に怪我をさせることはないよ」

「私、こう見えて猫には好かれる質です」

胸を張って私が言いますと、エドガー様は声を
上げて笑いました。



『お嬢様、そろそろ…』と、お母様の侍女が私を呼びに来ました。
昼食の前に、お母様からウエディングドレスを
いただく事になっていました。
帝国に持ち帰り、結婚式までに私のサイズに合わせるのです。
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