初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました
『気に入ってもらえた……』
話疲れた俺はソファに身を預けた。


「私の前では、姿勢を正す事が決まりよ」

俺を見るマダムの目はとても冷ややかだった。



後日、当日の段取りを打ち合わせる為にマダムに呼び出された。

その店は王都の外れの人気のレストランで。
店のオーナーはマダムの夫だった。
ランチの客が全て帰った後、準備中の札が扉に
掛けられていた。
調理場にもホールにも従業員が何人もいて、
ディナーに向けての準備に追われていた。

俺と関係を持つつもりはないことを、多くの人目があるこの場所で会うことで、マダムが俺に示しているような気がした。


「詳しく話すつもりはないけれど
 貴方を夜会に連れていく理由を教えて
あげるわ」

「お願いします」

「シェリーズ・バーミング・ガルテン、
 それが理由よ」

ガルテン伯爵夫人、シャルの母親の名前だ。


「貴方と一緒にいるのが私と知って、あの女が
 どんな表情を見せるのか楽しみなの」

「……」

「あの女に、私は略奪されたのよ」


詳しくは教えないと言っていたので、それ以上は語るつもりはないのだろうが……
略奪と言うからにはシャルの父親絡みか?

ただ伯爵夫人とマダムの間の因縁に、俺とシャルが巻き込まれるのは勘弁して欲しい。


「安心して」

察したマダムがうっすらと微笑んだ。
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