初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました
確かにディランお兄様はとても優秀でお優しく、仕事もお出来になる御方です。
それにお父様とも気が合うようでしたけれど。

けれど……


「私はノーマン様をお慕いしています」

「愛するという気持ちが女性にとっては大切な
ものなのだと、わかっている
 だが愛されて大切にされる幸せというのも、
お前に知っていて貰いたいのだ」


私はノーマン様に愛されていない。
大切にされていない。

お父様はそう仰りたいのを我慢されているの
でしょう。
お父様の拳が震えているのがわかりました。

しばらく黙っていらっしゃいましたが、お怒りがおさまってきたのでしょう。
お父様はとても優しいお顔で私を見つめて、抱き締めて下さいました。


「今回は目をつぶろう、だが次はないぞ」

「お父様、ありがとうございます」

「ノーマンが駄目だったからと言って、今更
兄であるディランは迎えられない
 次の相手は父が選ぶが……いいな?」


お父様がそう仰るのは仕方がないこと。
ノーマン様に振り回されるのは、これを最後にしていただかなくては。

私は改めて覚悟を決めました。
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