初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました
皆が自分の将来を見据え、それに向かって動き出そうとしているように思え…

私だけが何処にも動けずに。
それなのにしっかり根を張ることも出来ず。
ただゆらゆらと漂っているような……
息が詰まって、呼吸がしづらくなって来ました。

ですが、それを告げてふたりを困らせて何になるのでしょう……


スカーレットは冠婚葬祭のマナー本をパラパラと流し読みしていました。
私は平積みされていた売れ筋本の表紙を眺めていました。
買いたい本も読みたい本も今の私にはありません。


「今の流行りは悪役令嬢よ
 クリスティン様の影響ね」

こちらにやって来たスカーレットが言いました。


「魅了の力で冤罪をかけられて婚約破棄される
悪役令嬢のお話らしいわ
 私は読んでないのだけれど、発禁処分にならなきゃいいけどね」

ノーマン様の動向にクリスティン様が関係していることは、まだ誰にも言っていません。
それを知らないスカーレットがクリスティン様のお名前を出したのは、特に意味はなかったのですが……

暗い表情の私に気付いたのか、殊更明るくお茶にしようと、誘われました。


「季節限定のフルーツタルトがとても有名で人気のカフェよ
 聞いたことあるでしょ?
 予約出来ないから少し待つかもしれないけれど、行きましょうよ」
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