初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました
多分、今がその時なのに。

自分では泣くだろうと、想像していたのに。


不思議と心が軽くなったのが、わかりました。

(私はもう、我慢しなくていい)


スカーレットとギリアンの視線に気付いて、
私は口元に人差し指を立てました。

(このまま、黙っておふたりの話を聞かせて)


「疲れてなどいないけれど……
 こうして貴方と王都にいると、どうしても
考えてしまうの」

「何を考えるのですか?」

「王都にいる貴方の婚約者のことよ」

スカーレットが私の手を包むように握ってきたので『大丈夫よ』と伝えるつもりで、反対の手で
軽く触れました。

(心配させてごめんなさい、私は大丈夫)


「どうしてシャーロットのことなんか」

『なんか、って言ったわよ、あいつ!』
スカーレットが小さく呟きました。

(彼にとって、私はそんな存在なの)


「別荘ではこの世界には私達ふたりだけと、
 夢を見ていられるのだけど……」

「……」

「王都には現実があって、それが貴方の
婚約者なの
 ここでは、夢を見ることは叶わないの」

「……すみません」

クリスティン様のお辛そうな声に、ノーマン様は小さな声で謝罪しました。 

(謝るなら、もっと大きな声で言えばいいのに)
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