初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました
「どうして謝るの? 悪いのは私なのに
 決まったお相手のいる貴方を、愛してしまった私が悪いのに」

『こんなセリフの舞台なかった?』
スカーレットが小さな声でギリアンに問うと、
彼は首を振りました。

(略奪するヒロインがよく言う台詞よ)


「あぁノーマン様!」

「クリスティン様!」


それはまるで、万感の想いを込めてお互いの名を呼ぶ恋人達。
スカーレットが言う通り、おふたりは舞台の主役のようです。

私はそう思うと可笑しくて。
このままおふたりがどんな台詞で悲劇の恋人同士を演じられるのか、最後まで聞きたくなりました。
その舞台では、きっと私はおふたりの愛の障害なのです。


「ノーマン様、貴方を愛しています
 夏の間だけと、私は約束したけれど……
 どうか、この夏の思い出に一度だけでいいの
 私を貴方のものにして欲しいの」

「それは……僕も貴女を愛しています
 ですが、待って欲しいのです
 僕に時間をいただけませんか?」

「貴方のことが本当に好きなの
 貴方も愛してくださっているのならどうして?
 応えてくれないの?」
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