初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました

もうバカな女のふりはやめる

帰りの馬車の中。
私の隣でスカーレットが叫んでいました。


「何なの、あの女!
 婚約者のいる男にすり寄って本物の悪役令嬢
 じゃないの!」

「……公爵令嬢に対して不敬よ」

「あの馬鹿も、何であんな淫乱にたぶらかされてるのよ!」

「たぶらかされたんじゃなくて、自ら望んで行ったのよ」

私がそう返すと、スカーレットはこちらに身を
よじって、目を丸くしました。


「前から知ってたの?
 どうして皆に言わなかったの!」

「夏が終われば戻るとノーマン様が仰ったから」

私が淡々とそう言ったので、スカーレットは黙ってしまいました。


『やっと静かになった』
ボソボソとギリアンは言い、向かいに座る私を
真っ直ぐな視線で見つめました。


「シャルはこれからどうする?」

「まずはノートを燃やすわ」

「えー、燃やすの勿体ないー」

彼女の方を見ずに、私は返事をしました。


「貴女にあげないわよ、スカーレット
 あれは縁起がよくないから、やめなさい」

「貴女どうしたの、シャル?」

いつもと違う私の口調に、彼女は戸惑っているようでした。


「もうバカな女の振りはやめるんだろ」
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