初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました
幸い私達は幼い頃に簡易な書類で婚約を結んだ仲だったので、正式な婚約式は行われず、
来年の結婚式がお客様を招いての初めてのお披露目でした。


ウエディングドレスはお母様のものをお譲りいただく予定で、
ブーケはノーマン様がご用意してくださるお約束でしたので、
我が家が支払う結婚に向けての費用は、まだ多額なものは発生していませんでした。

こうなると婚礼家具の発注や部屋の改装を済ませていなかった事は、本当に不幸中の幸いだと思いました。


お父様がお帰りになったので、クリスティン様のお名前以外、全てをお話しました。
お父様は黙って、そのまま書斎を出ていかれました。
そして夕食の席で、婚約を解消してきたと、仰いました。


お母様に解消になったことを謝りますと、抱き締めてくださいました。


「ずっとシャルに我慢させて、ごめんなさい
 彼なら貴女を幸せにしてくれると思ったのに」


『お母様を幸せにしたかったの』と、伝えることはやめました。

『私が男児を生んでお母様を幸せにする』なんて考えていた私は、思い上がっていたのでしょう。


私はノーマン様を愛そうと努力したつもりだったけれど。
愛されようとする努力は、足りなかったかもしれません。
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