初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました
『お姫様に負けちゃった』とだけ、
お母様に言うと。
私の黒髪を撫でながら、こう仰ったのです。

『私のお姫様はこんなに素敵なのに、ノーマンのばかやろう』

驚きました。
ばかやろう、なんて言葉をお使いになるお母様は初めてでした。
もしかしたら、隠れて泣いていたと思われていたけれど。
誰もいないところではお祖母様のことも、こうして罵っていたのかしらと、可笑しくなりました。


もうお月様にお願いしなくても。
私の呪いは消えたと、思いました。


後日、両家でお話をすることになりましたが
当事者のノーマン様の姿は、ありませんでした。
おじ様が騎士団にノーマン様宛の伝言をお願い
したのですが、無視されたのでしょう。

何となくそう予想していた私は別に傷つきませんでしたが、
ブライトンのおじ様がここにいないノーマン様を罵っていて、
おば様は泣き続け、その肩をお母様がずっと抱いていました。

ブライトンの領地からわざわざアクセルお兄様が来て頭を下げてくださったので、私は却って恐縮してしまいました。

解消としたことで、違約金が発生しなかった事を
『申し訳ないけど助かった』と、正直な気持ちを仰いますので、少し笑ってしまいました。
アクセルお兄様は、昔からいつも私を笑わせて
くださいました。
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