初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました
ディランお兄様は何故だか、以前より疲れて見えました。


「ディランお兄様は私より元気がありませんね」

「シャルが元気なら何よりだよ」

「試験勉強で睡眠が足りていないのでしょう?
 どうかきちんと休める時は休んでくださいね」

「……また顔を見せてくれるかな?」

「勿論ですわ、お兄様のますますのご活躍を
お祈りしています」

もう他人行儀という言葉をディランお兄様は仰いませんでした。
本当に私達は他人になってしまったのです。


「私は、君が……」

そう言いかけて、お兄様は黙られました。
ディランお兄様とお会いしたのは、それが最後
でした。


さすがにしばらくはノーマン様のお顔を見るのは無理だと思いましたので、お父様に留学したいと、申し出ました。

お父様は『手放したくない』と反対されましたが
『ここにはいたくない』と私が泣いた素振りを
見せると、渋々折れてくださいました。

お父様にお願いをする時はと、お母様がお勧めしてくださった手法を使わせていただいたのです。


お許しくださると、外務関係のお知り合いが多いお父様の手腕はさすがでした。
本来なら半年以上かける準備期間ですが、
留学用旅券、寮の手配、その他必要な書類も
手早くご用意してくださいました。


夏が終わる直前に、
スカーレットの婚約披露パーティーが行われました。
私が留学すると伝えると、いつもあれこれ注意をしてくる彼女なのに、ただ黙って抱き締めてくれました。

ギリアンは何とも言えない表情をして
『1年で帰ってくるよな?』と確認してきました。

『辛かったら、もっと早くなるかも』と
私が答えると、
『直ぐに帰ってきても僕は笑わない』と
真面目な顔をして言ってくれました。


2日後、私は王国を旅立ちました。
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