初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました
それでも、俺にはクリスティン様からのお誘いを断る気はなかった。


これは俺が選んだことだ。
これだけは誰にも邪魔はさせない。


大きな荷物を持ち、しばらく留守にすると告げると、家族から突き上げられた。
シャル以外の女の所に行くのだと、気付いたのだろう。

親父は説明しろと怒鳴り、
何処に行くのと、母はおろおろしていた。
ディランには襟元を掴まれた。
『何でお前なんかが……』と、絞り出すように
ディランが言った。


シャルには泣かれたが、申し訳ないという気持ちは持てなかった。
俺からの誘いを当然のように待っていた彼女は、俺の話に愕然としていた。


俺だって本気で夏の間ずっと、なんて思ってなかった。

クリスティン様はふたりでと言ったが、他にも
彼女の友人が別荘を出入りするだろうし、仕事も休めない。

多分、シャルが想像してるより王都に帰る機会は多い。
夏中会わないと口にはしたけど、そこまでシャルを放っておくつもりはなかった。


ちょっとした意趣返しだったのだ。

シャルは来年の結婚に向けて、あれこれ考えて
ノートなんか作って楽しそうにしてたけど、そこには俺の意見など入ってない気がしてた。

相談と言いながらそのノートを見せられても、
彼女のしたいように物事は進むんだろうと、
気持ちは冷めて行くばかりだったのだ。
< 82 / 190 >

この作品をシェア

pagetop