初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました
お茶のワゴンを押しながら、エドガー様が戻ってこられました。

侯爵子息様にお茶のお世話をさせてはと、私は
あわてて立ち上がりかけましたが、留まるよう
エドガー様は掌を向けられました。


「近衛では、お茶の入れ方も仕込まれるのです
お客にお茶を出すのは、若輩者の仕事ですから」

エドガー様はそう仰りながら、とても美しい所作でお茶をサーブしてくださいました。


皇太子殿下が小さくコツコツとテーブルを叩かれました。
エドガー様に目を奪われていた私の意識を、会話に戻す為でした。


「あの夜私達が王宮に到着したのは、断罪が終わった後のことでございます
 私の支度に手間取り遅刻したのです
 ですから、既に皆様が連れ出された後でした」

新しく入れてくださったお茶を飲みながら、殿下は続けてと、仰いました。


「友人から話を聞いたのです
 彼女はクリスティン様が命じられた追放について、教えてくださったのですけれど……
 優しいのか酷いのか判らないわね、と」


多分、殿下が求めておられるのはこのような話
なのだと、思いました。
一見無関係な、余り意味を持たない、
証言として記す価値もない意見。


それが正解なのでしょうか。
殿下もエドガー様も黙って、私の話を聞いていて
くださっていました。
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