竜帝陛下と私の攻防戦
竜帝陛下はそれなりに事態を楽しむ
朝方まで夜更かしをして眠気に襲われていても、正直な身体はぐうぐうと音を出して空腹を訴えだす。
ぐっと腹部に力を入れて、音をならさないように気を使いながらベルンハルトにも確認すると、彼も長らく食事はしていなかったと言う。
眠い目を擦りながらキッチンへ立ち、佳穂は朝食の準備を始めた。
簡単に作れる味噌汁とだし巻き玉子、作りおきをして冷凍していたきんぴらごぼうとご飯を解凍するだけの朝食メニューを作りながら、佳穂は頭の中で「いったい何をしているのだろう」と、自問自答を繰り返す。
人とは思えないくらい綺麗な顔をしていても、異世界の皇帝だとしても彼が危険人物には変わり無いのに。
危険人物と一瞬に食べるご飯を用意するとか、お人好し過ぎではないか。
「和食だから口に合うか分かりませんが……」
「おい、お前には夫がいるのか?」
テーブルに並べた朝食と佳穂を交互に見たベルンハルトからの問いに、持っていた箸を落としかけた。
「私はまだ学生だし、お、夫なんかいませんよ。この家で一人暮らししています」
「若い女にしては手際が良いから、夫がいるのかと思っただけだ。まぁ夫がいたら、俺の裸にあそこまで動揺はしないか。まさかお前、男を知らぬ生娘か」
「はっ!?」
動揺で肩を揺らして顔を赤くする佳穂の反応に、ニヤリとベルンハルトは意地悪な笑みを浮かべる。
髪の毛を乾かしていたときは大型犬みたいで可愛いかもと思ったが、撤回する。
やはり彼は意地悪な悪鬼、血の涙もない悪魔かもしれない。
***
黙々と食事を終え、用意した部屋の前までベルンハルトを先導した佳穂は自由に部屋を使ってかまわないことを告げ、居間へ戻って行った。
佳穂の背中を廊下の曲がり角まで見送り、襖を開けたベルンハルトは部屋を見渡す。
室内には、照明以外は箪笥と時計、寝具しか置いて無い。宮殿の自室と比べるまでもなく質素で、使用人の部屋並の狭い部屋だった。
食事をした居間は板張りだったが、この部屋は草を編んだ床が敷き詰められているのが珍しく、床へ座り編まれた草の感触を確かめる。
そのまま座るのは硬いと思い、部屋の隅に置かれた平べったいクッションを引き寄せ座ってみた。
椅子ではなく床に敷いた敷布に座るのは、帝国とは全く違う生活様式のようだ。
女の一人暮らしだというのに、佳穂の防犯意識と危機意識は低い。
あの危機意識の低さから、少なくともこの家の周辺は平和なのだろう。
見聞きした少ない情報からも、ベルンハルトは心臓が繋がっていようが佳穂より自分が優位に立てると確信していた。
家屋に靴を脱いで入るのも、狭い風呂へ一人で入るのも側仕えの者以外の女に髪を洗われるのも、浴衣というガウンに似た衣を着るのもなかなか新鮮な経験だった。
床に敷かれた寝具に腰掛けて、家屋内の気配を探っても佳穂という女の気配しかしない。
常に側に控えていた侍従や護衛の気配がしないのも妙な気がして、ベルンハルトは立ち上がった。
(あの女は……まだ先程の部屋に居るな)
異世界転移、心臓が繋がってしまうなどという訳の分からない状況により頭が冴えて寝付けそうもなく、佳穂からこの世界の事を聞き出そうと居間へ向かった。
ぐっと腹部に力を入れて、音をならさないように気を使いながらベルンハルトにも確認すると、彼も長らく食事はしていなかったと言う。
眠い目を擦りながらキッチンへ立ち、佳穂は朝食の準備を始めた。
簡単に作れる味噌汁とだし巻き玉子、作りおきをして冷凍していたきんぴらごぼうとご飯を解凍するだけの朝食メニューを作りながら、佳穂は頭の中で「いったい何をしているのだろう」と、自問自答を繰り返す。
人とは思えないくらい綺麗な顔をしていても、異世界の皇帝だとしても彼が危険人物には変わり無いのに。
危険人物と一瞬に食べるご飯を用意するとか、お人好し過ぎではないか。
「和食だから口に合うか分かりませんが……」
「おい、お前には夫がいるのか?」
テーブルに並べた朝食と佳穂を交互に見たベルンハルトからの問いに、持っていた箸を落としかけた。
「私はまだ学生だし、お、夫なんかいませんよ。この家で一人暮らししています」
「若い女にしては手際が良いから、夫がいるのかと思っただけだ。まぁ夫がいたら、俺の裸にあそこまで動揺はしないか。まさかお前、男を知らぬ生娘か」
「はっ!?」
動揺で肩を揺らして顔を赤くする佳穂の反応に、ニヤリとベルンハルトは意地悪な笑みを浮かべる。
髪の毛を乾かしていたときは大型犬みたいで可愛いかもと思ったが、撤回する。
やはり彼は意地悪な悪鬼、血の涙もない悪魔かもしれない。
***
黙々と食事を終え、用意した部屋の前までベルンハルトを先導した佳穂は自由に部屋を使ってかまわないことを告げ、居間へ戻って行った。
佳穂の背中を廊下の曲がり角まで見送り、襖を開けたベルンハルトは部屋を見渡す。
室内には、照明以外は箪笥と時計、寝具しか置いて無い。宮殿の自室と比べるまでもなく質素で、使用人の部屋並の狭い部屋だった。
食事をした居間は板張りだったが、この部屋は草を編んだ床が敷き詰められているのが珍しく、床へ座り編まれた草の感触を確かめる。
そのまま座るのは硬いと思い、部屋の隅に置かれた平べったいクッションを引き寄せ座ってみた。
椅子ではなく床に敷いた敷布に座るのは、帝国とは全く違う生活様式のようだ。
女の一人暮らしだというのに、佳穂の防犯意識と危機意識は低い。
あの危機意識の低さから、少なくともこの家の周辺は平和なのだろう。
見聞きした少ない情報からも、ベルンハルトは心臓が繋がっていようが佳穂より自分が優位に立てると確信していた。
家屋に靴を脱いで入るのも、狭い風呂へ一人で入るのも側仕えの者以外の女に髪を洗われるのも、浴衣というガウンに似た衣を着るのもなかなか新鮮な経験だった。
床に敷かれた寝具に腰掛けて、家屋内の気配を探っても佳穂という女の気配しかしない。
常に側に控えていた侍従や護衛の気配がしないのも妙な気がして、ベルンハルトは立ち上がった。
(あの女は……まだ先程の部屋に居るな)
異世界転移、心臓が繋がってしまうなどという訳の分からない状況により頭が冴えて寝付けそうもなく、佳穂からこの世界の事を聞き出そうと居間へ向かった。