竜帝陛下と私の攻防戦
不思議な本と不法侵入者
失恋と言うには悲惨な経験をしてしまった佳穂は、ずぶ濡れの体をお風呂で温めてから布団へ横になった。
しかし、何度寝返りをうっても気分が高ぶっていて全く眠れない。
若い頃の苦労は買ってでもしろ、と亡き祖母は言っていたけれども今回ばかりは買いたくも無い苦労だし、必要無いでしょうと悔しくなる。
初めて出来た彼氏があんな最低な男だったなんて、男性不振になっても仕方ないじゃないか。
告白された1ヶ月前に戻って、浮かれまくっていた自分の頬を引っ張っ叩きたくなる。
「復讐、まではいかなくても、ちょっとでも不幸になるような物があれば……はっ!?」
布団の中で恨み言をぶつぶつ呟いていた佳穂はあることを閃く。
ガバッ!
体に巻き付けていたタオルケットを蹴り飛ばして起き上がった。
自室から薄暗い廊下を通り台所へ行き、冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターのペットボトルに口を付ける。
冷たいミネラルウォーターで喉を潤して、ほぅと一息ついた。
冷たい水を摂取して高ぶっていた気持ちが少し落ち着いてくる。
ペットボトルを冷蔵庫へ戻し扉を閉めれば台所は再び暗くなった。
フラれた挙げ句、すぶ濡れになり泣いて叫んでと精神的に疲労困憊な佳穂は、先月二十歳になったばかりの私立大学二年生である。
住んでいる場所は日本の首都、その中でも下町と呼ばれる場所に建つ昔ながらの平屋の日本家屋で、幼い頃に両親を事故で亡くしてこの家で祖母と叔父と一緒に暮らしていた。
二年前に祖母が病気で亡くなり、考古学者の叔父は半年前から仕事で長期海外赴任中のため、現在は一人暮らしとなっていた。
何事も大雑把で明るい叔父が家に居れば、フラれたことを笑い飛ばしてくれただろう。
居れば鬱陶しい叔父がこんなにも恋しいだなんて、相当心が疲弊しているらしい。はぁーと、溜息を吐く。
今の佳穂は、一人で悶々と考え続ける深みに陥ってていたせいか、後に冷静になった時に考えてみたら少々、いや大分思考がおかしくなっていた。でなければ、夜中には絶対に近寄りたくない叔父の部屋へ行って、呪術的な書物や道具を探そうだなんてしないはずだ。
頭のネジが外れかけてしまった佳穂は、叔父の部屋の隣室、仕事関係で手に入れたコレクション部屋の襖を躊躇無く開ける。
久し振りに入ったコレクション部屋は埃っぽくて、鼻の粘膜は舞い上がる埃に反応して大きなくしゃみが出た。
たまにはこの部屋を掃除しようかと考えながら、佳穂は部屋にある珍品を物色する。
部屋の四隅に並んだスチール棚には本が並び、中央に設置されたラックには少数民族の楽器やら何かの儀式用の道具、干からびた謎の物体、鏡や銅剣が置かれていた。
「相変わらず意味不明な物ばっかりあるなぁ」
用途がわからない物にはなるべく触れないようにして、部屋の奥に設置されている棚へと向かう。
目的の棚には、学術書から数年前に流行ったライトノベルまで様々なジャンルの本が置かれていた。
「えーっと、黒魔術、呪術……」
目を皿のようにして佳穂は本の背表紙をチェックしていく。
数冊の本を手に取り、内容をチェックをし終えて棚へ戻す。
背表紙で判断出来ない本は、棚から出して中をチェックするという作業は地味で単調で、段々面倒になってくる。
さすがに眠くなってきて欠伸をした時、棚からバサッと一冊の本が落下した。
「何、これ?」
赤茶色の表紙は何語か分からない文字が踊り、見た目は古い外国の辞典のような本だった。
両手で本を持ちパラパラとページを捲ってみる。
捲っても黄ばんだ白いページが続くのみで、何だこれはと佳穂は首を傾げた。
「何も書いてない、真っ白? って、えぇっ?」
白いページを指でなぞると、突然何も書かれていなかった箇所にぼんやりと灰色の文字が現れたのだ。
薄かった文字は、佳穂が驚く間に色を濃くしていく。
「外国製の、仕掛けつきの本かな?」
ページの中央に現れた文字は、日本語とも英語とも違う不思議な文字だというのに、佳穂の脳裏に文字の意味が音となって響いた。
「“我を開けた者こそが我が主、我の片割れを持つ者こそ汝と運命を共にする者”」
現れた文字を声に出し終わると文字は消え、ページ中央に新たなる文字が現れる。
「“我が片割れの主となる者こそが、汝の魂の片割れとなり、遥かなる悠久の時を歩まん”」
口に出し終わっても次はページには続く文は現れず、何か仕掛けがあるのかと期待していた佳穂は、拍子抜けした気持ちで本に触れた。
パアアアー!
触れた瞬間、本の表面から白く輝く光が放たれていく。
「えぇっ!?」
驚きのあまり大声を出した佳穂は、本から溢れ出てくる光の洪水に堪えきれずに両目をきつく閉じた。
しかし、何度寝返りをうっても気分が高ぶっていて全く眠れない。
若い頃の苦労は買ってでもしろ、と亡き祖母は言っていたけれども今回ばかりは買いたくも無い苦労だし、必要無いでしょうと悔しくなる。
初めて出来た彼氏があんな最低な男だったなんて、男性不振になっても仕方ないじゃないか。
告白された1ヶ月前に戻って、浮かれまくっていた自分の頬を引っ張っ叩きたくなる。
「復讐、まではいかなくても、ちょっとでも不幸になるような物があれば……はっ!?」
布団の中で恨み言をぶつぶつ呟いていた佳穂はあることを閃く。
ガバッ!
体に巻き付けていたタオルケットを蹴り飛ばして起き上がった。
自室から薄暗い廊下を通り台所へ行き、冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターのペットボトルに口を付ける。
冷たいミネラルウォーターで喉を潤して、ほぅと一息ついた。
冷たい水を摂取して高ぶっていた気持ちが少し落ち着いてくる。
ペットボトルを冷蔵庫へ戻し扉を閉めれば台所は再び暗くなった。
フラれた挙げ句、すぶ濡れになり泣いて叫んでと精神的に疲労困憊な佳穂は、先月二十歳になったばかりの私立大学二年生である。
住んでいる場所は日本の首都、その中でも下町と呼ばれる場所に建つ昔ながらの平屋の日本家屋で、幼い頃に両親を事故で亡くしてこの家で祖母と叔父と一緒に暮らしていた。
二年前に祖母が病気で亡くなり、考古学者の叔父は半年前から仕事で長期海外赴任中のため、現在は一人暮らしとなっていた。
何事も大雑把で明るい叔父が家に居れば、フラれたことを笑い飛ばしてくれただろう。
居れば鬱陶しい叔父がこんなにも恋しいだなんて、相当心が疲弊しているらしい。はぁーと、溜息を吐く。
今の佳穂は、一人で悶々と考え続ける深みに陥ってていたせいか、後に冷静になった時に考えてみたら少々、いや大分思考がおかしくなっていた。でなければ、夜中には絶対に近寄りたくない叔父の部屋へ行って、呪術的な書物や道具を探そうだなんてしないはずだ。
頭のネジが外れかけてしまった佳穂は、叔父の部屋の隣室、仕事関係で手に入れたコレクション部屋の襖を躊躇無く開ける。
久し振りに入ったコレクション部屋は埃っぽくて、鼻の粘膜は舞い上がる埃に反応して大きなくしゃみが出た。
たまにはこの部屋を掃除しようかと考えながら、佳穂は部屋にある珍品を物色する。
部屋の四隅に並んだスチール棚には本が並び、中央に設置されたラックには少数民族の楽器やら何かの儀式用の道具、干からびた謎の物体、鏡や銅剣が置かれていた。
「相変わらず意味不明な物ばっかりあるなぁ」
用途がわからない物にはなるべく触れないようにして、部屋の奥に設置されている棚へと向かう。
目的の棚には、学術書から数年前に流行ったライトノベルまで様々なジャンルの本が置かれていた。
「えーっと、黒魔術、呪術……」
目を皿のようにして佳穂は本の背表紙をチェックしていく。
数冊の本を手に取り、内容をチェックをし終えて棚へ戻す。
背表紙で判断出来ない本は、棚から出して中をチェックするという作業は地味で単調で、段々面倒になってくる。
さすがに眠くなってきて欠伸をした時、棚からバサッと一冊の本が落下した。
「何、これ?」
赤茶色の表紙は何語か分からない文字が踊り、見た目は古い外国の辞典のような本だった。
両手で本を持ちパラパラとページを捲ってみる。
捲っても黄ばんだ白いページが続くのみで、何だこれはと佳穂は首を傾げた。
「何も書いてない、真っ白? って、えぇっ?」
白いページを指でなぞると、突然何も書かれていなかった箇所にぼんやりと灰色の文字が現れたのだ。
薄かった文字は、佳穂が驚く間に色を濃くしていく。
「外国製の、仕掛けつきの本かな?」
ページの中央に現れた文字は、日本語とも英語とも違う不思議な文字だというのに、佳穂の脳裏に文字の意味が音となって響いた。
「“我を開けた者こそが我が主、我の片割れを持つ者こそ汝と運命を共にする者”」
現れた文字を声に出し終わると文字は消え、ページ中央に新たなる文字が現れる。
「“我が片割れの主となる者こそが、汝の魂の片割れとなり、遥かなる悠久の時を歩まん”」
口に出し終わっても次はページには続く文は現れず、何か仕掛けがあるのかと期待していた佳穂は、拍子抜けした気持ちで本に触れた。
パアアアー!
触れた瞬間、本の表面から白く輝く光が放たれていく。
「えぇっ!?」
驚きのあまり大声を出した佳穂は、本から溢れ出てくる光の洪水に堪えきれずに両目をきつく閉じた。