竜帝陛下と私の攻防戦
「何だ?」
ぐにゃり、視界が渦を巻き始める。
強い眩暈に襲われたベルンハルトは右手で顔を覆う。
「これは、彼奴の? くっ、彼奴、まさか……酩酊状態になっているのか?」
視界が揺れ、気を抜けば意識が何処かへとんで行ってしまいそうだ。
これは幼い頃に一度だけ、致死量の十倍以上の毒を盛られて倒れた時以来の感覚だった。
『友達との付き合いで一次会だけ参加してきます。大丈夫、お酒は飲みませんから』
玄関で佳穂を見送るベルンハルトへ、彼女は笑顔でそう言って出掛けて行った。
「この何処が大丈夫だ」
眩暈に続き、胃からこみ上がってくる強烈な吐き気でベルンハルトは小さく呻く。
幼いころなら兎も角、現在が酒や薬物を摂取してベルンハルトは意識朦朧になることは無い。
ほぼ経験が無いとはいえ、佳穂の身に起こっていること、これから起こることくらい推測出来た。
心臓が繋がっていなければ、酩酊状態で男達と共にいてどうなろうが自業自得だと切り捨てていた。
否、心臓が繋がっていなくとも、特別視していると先日自覚したばかりの佳穂を今のベルンハルトが切り捨てることなど、出来ない。
(男が側にいる状態で酒にのまれるとは、あの馬鹿女が!)
状態回復魔法をかけても、原因となっている佳穂が不調のままならば眩暈と嘔気が治まるのは一時だけ。
歯を食いしばり、ソファーの背凭れを掴んだベルンハルトは緩慢な動作で立ちあがった。
***
ゆらゆらゆらゆら、目の前が揺れる。
淡い霧がかかり、全身の感覚はやけに鈍い。まるで船の上に居るような浮遊感。
(……?)
遠くで誰かが名前を呼んでいる気がしたけれど、身体がだるくて動けそうもない。
低音の、耳に心地良く響く男の人の声は、知らない人のはずなのにひどく懐かしくて少しだけ切ない気分になった。
「ちょっと~佳穂、大丈夫? ヘロヘロじゃない。もぉ~飲ませ過ぎだって!」
二次会の会場であるカラオケへ移動しようとした時、今回の飲みには乗り気じゃなかったはずの佳穂が赤い顔をして店頭で蹲っていたことに気が付き、友人女性は身を屈めて彼女の肩を揺すった。
「お~い、聞こえている?」
片手で肩を揺すり、熱を持つ頬を軽く叩いてみても佳穂の反応は鈍い。
困り果てた表情を浮かべる女性は酔いつぶれた佳穂の心配は以上に、飲み会で親しくなった男子学生と二次会に行きたいのに彼女の世話をしなければならないのかと、困っていた。
佳穂を誘ったのは自分だという事実もあり、このまま放っておく訳にもいかず途方に暮れて周囲を見渡す。
「飲ませ過ぎた責任をとって俺が送って行くよ」
先程まで、意識がはっきりしていない佳穂の隣に座って飲んでいた金髪の青年がそう言えば、一気に女性の表情が明るくなる。
「えっ? いいの?」
「うん、任せて」
青年が頷くと女性は彼に佳穂の世話を頼み、お目当ての男子学生の元へと走って行った。
「おーい! 送り狼になるなよ」
「頑張れよ~」
いい感じにほろ酔い気分となっていた友人達が口々に茶化す声を金髪の青年へかける。
「まさか、俺がそんな事をするかよ」
繁華街へと向かう彼等に軽く手を振ると、青年は佳穂の脇の下へ手を差し入れて立たせる。
意識を朦朧とさせる佳穂の肩と腰に手を回して歩けば、傍目からは酔った彼女を支えて歩く彼氏、といった風にしか見えない。
友人達の後ろ姿が完全に視界から消えたのを確認すると、青年はジーンズの後ろポケットからスマートフォンを取り出し、目当ての人物に電話をかける。
「俺だけど。うまく行ったよ。後は予定通りにそっちへ行く」
話しながら青年の口元に浮かぶのは、つい先程まで浮かべていた人懐っこい笑みとは程遠い冷たい笑みだった。
ぐにゃり、視界が渦を巻き始める。
強い眩暈に襲われたベルンハルトは右手で顔を覆う。
「これは、彼奴の? くっ、彼奴、まさか……酩酊状態になっているのか?」
視界が揺れ、気を抜けば意識が何処かへとんで行ってしまいそうだ。
これは幼い頃に一度だけ、致死量の十倍以上の毒を盛られて倒れた時以来の感覚だった。
『友達との付き合いで一次会だけ参加してきます。大丈夫、お酒は飲みませんから』
玄関で佳穂を見送るベルンハルトへ、彼女は笑顔でそう言って出掛けて行った。
「この何処が大丈夫だ」
眩暈に続き、胃からこみ上がってくる強烈な吐き気でベルンハルトは小さく呻く。
幼いころなら兎も角、現在が酒や薬物を摂取してベルンハルトは意識朦朧になることは無い。
ほぼ経験が無いとはいえ、佳穂の身に起こっていること、これから起こることくらい推測出来た。
心臓が繋がっていなければ、酩酊状態で男達と共にいてどうなろうが自業自得だと切り捨てていた。
否、心臓が繋がっていなくとも、特別視していると先日自覚したばかりの佳穂を今のベルンハルトが切り捨てることなど、出来ない。
(男が側にいる状態で酒にのまれるとは、あの馬鹿女が!)
状態回復魔法をかけても、原因となっている佳穂が不調のままならば眩暈と嘔気が治まるのは一時だけ。
歯を食いしばり、ソファーの背凭れを掴んだベルンハルトは緩慢な動作で立ちあがった。
***
ゆらゆらゆらゆら、目の前が揺れる。
淡い霧がかかり、全身の感覚はやけに鈍い。まるで船の上に居るような浮遊感。
(……?)
遠くで誰かが名前を呼んでいる気がしたけれど、身体がだるくて動けそうもない。
低音の、耳に心地良く響く男の人の声は、知らない人のはずなのにひどく懐かしくて少しだけ切ない気分になった。
「ちょっと~佳穂、大丈夫? ヘロヘロじゃない。もぉ~飲ませ過ぎだって!」
二次会の会場であるカラオケへ移動しようとした時、今回の飲みには乗り気じゃなかったはずの佳穂が赤い顔をして店頭で蹲っていたことに気が付き、友人女性は身を屈めて彼女の肩を揺すった。
「お~い、聞こえている?」
片手で肩を揺すり、熱を持つ頬を軽く叩いてみても佳穂の反応は鈍い。
困り果てた表情を浮かべる女性は酔いつぶれた佳穂の心配は以上に、飲み会で親しくなった男子学生と二次会に行きたいのに彼女の世話をしなければならないのかと、困っていた。
佳穂を誘ったのは自分だという事実もあり、このまま放っておく訳にもいかず途方に暮れて周囲を見渡す。
「飲ませ過ぎた責任をとって俺が送って行くよ」
先程まで、意識がはっきりしていない佳穂の隣に座って飲んでいた金髪の青年がそう言えば、一気に女性の表情が明るくなる。
「えっ? いいの?」
「うん、任せて」
青年が頷くと女性は彼に佳穂の世話を頼み、お目当ての男子学生の元へと走って行った。
「おーい! 送り狼になるなよ」
「頑張れよ~」
いい感じにほろ酔い気分となっていた友人達が口々に茶化す声を金髪の青年へかける。
「まさか、俺がそんな事をするかよ」
繁華街へと向かう彼等に軽く手を振ると、青年は佳穂の脇の下へ手を差し入れて立たせる。
意識を朦朧とさせる佳穂の肩と腰に手を回して歩けば、傍目からは酔った彼女を支えて歩く彼氏、といった風にしか見えない。
友人達の後ろ姿が完全に視界から消えたのを確認すると、青年はジーンズの後ろポケットからスマートフォンを取り出し、目当ての人物に電話をかける。
「俺だけど。うまく行ったよ。後は予定通りにそっちへ行く」
話しながら青年の口元に浮かぶのは、つい先程まで浮かべていた人懐っこい笑みとは程遠い冷たい笑みだった。