竜帝陛下と私の攻防戦
電球が切れかけて点滅を繰り返す街灯がかろうじて照らす、薄暗い川沿いの公園。
人通りもほとんど無い此処ならと、今回の計画を立てた仲間で待ち合わせ場所に決めた。
ベンチの側に立つ青年は、来るのが遅い待ち人に対して段々と苛立ちだす。
気持ちを落ち着かせるために、煙草に火をつけて何度もスマートフォンの画面を確認していた。
“良い人”を演じるために飲み会では喫煙を我慢していた分、ゆっくり煙草の煙を吸い込み気持ちを落ち着かせる。
暗がりの中からようやく待ち人の姿が現れると、口にくわえていた煙草を投げ捨てた。
「おせーぞ」
髪を後ろに撫でつけた背の高い青年が、片手を上げて「悪い」と答える。
彼と一緒に来た、もう一人の作業着を着た青年がベンチに横にさせられていた佳穂を指差す。
「お前が言ってた女ってコイツで合ってる?」
「ああ」
「大毅はこんな女に恥をかかされたのかよ。笑えるー」
そうとう派手な女かと思っていたら、想像した女と酔い潰れて眠る佳穂があまりにも違うため、作業着の青年は笑い出す。
「痛めつけた写真を送ればアイツ等の機嫌も直るんだろ? だったらさ聡、早くやっちまおうぜ」
作業着の青年がポケットからスマートフォンを取り出すが、大毅は困ったような笑みを浮かべた。
「OK、って言いたいところだけどさ、何か勿体無くなってさ。前は思わなかったけど、ちょっとコイツ可愛いなって」
罰ゲームで付き合っていた時は思わなかった感情に戸惑う大毅を見た後、友人達はベンチに横になって眠る佳穂の顔を無遠慮に覗き込む。
「確かに、よく見ると可愛いな」
付け睫毛をしているような長い睫毛が頬へ影を落とし、形の良い唇と微かに上気して赤く染まった頬がやけに艶めかしいく見える。
佳穂の顔を覗き込んでいた作業着の青年は、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「飲み会で話してみたら意外と話が合って、反応も素直っていうか可愛くて俺もちょっと気に入ったんだよな」
飲み会で佳穂の隣に座り、アルコール度数の高い酒を飲ませていた聡は彼女の顔にかかる髪を指でどかす。
「おい、お前等だけで楽しむ気かよ」
「とりあえず車へ運ぼうぜ」
耳元で話していても、起きることのない佳穂を大毅は抱き起こすと公園の横に停めた車へ運ぶため、脱力した細い肩を抱えた。
数日前、久々に会った佳穂はお遊びで付き合っていた時には感じなかった色気を纏い、中学生みたいだと馬鹿にしていた童顔が何故か可愛く見えて、つい声をかけた。
後から現れた男のせいで退散する羽目になったが、邪魔されなければ言葉巧みに遊びに誘っていただろう。
さらに運悪く、声をかけていた場面を彼女であるユリの女友達に目撃されてしまい、浮気を疑われて面倒な事になった。
泣きわめくユリを納得させるため、佳穂を辱めることを約束したのだ。
この先、佳穂が自分達を訴えると騒ぎ立てても写真と動画で黙らせればいい。
これからのことを想像して大毅の口元には厭らしい笑みが浮かぶ。
「……貴様等、その女をどこに連れて行く気だ?」
何の気配も無かった暗闇から突然響いた低い男の声に、弾かれたように彼等は公園の入り口を見た。
「何だテメェ?」
突然現れた相手を睨み付けて威嚇する作業着の青年を聡が止める。
人通りがほとんど無い場所とはいえ、街中で騒ぎを起こせば通報されかねない。佳穂を抱えている大毅の前に出た聡は、人の良さそうな作り笑いを浮かべた。
「何処へと言われても、一緒に飲んでいて酔い潰れたこの子を介抱していたんだよ。今から自宅まで送ろうと思っているんだ」
彼等からは逆光になって表情が見えない相手、ベルンハルトは、彼等に肩を抱えられた佳穂に視線を向けて彼女の状態を確認して眉間に皺を寄せる。
「酔い潰れたその女は自制は出来る。それがこの有り様だということは……貴様等、わざと強い酒を飲ませたか」
怒りを滲ませるベルンハルトに気圧されて、それまで笑顔を浮かべていた聡の顔が引きつっていく。
「はぁ? お前何者だよ?」
本能が目の前に立つベルンハルトは“危険”だと警鐘をならし、思わず後退った聡の声が震える。
「アイツがこの前の、ヤバイ奴だ……」
顔色を蒼白にした大毅はゴクリと唾を飲み込んだ。
「なら丁度良い。大毅に、人のダチに恥をかかせた礼をしてやるよ」
好戦的な作業着の青年から発せられる敵意を感じ取り、ベルンハルトは口の端を吊り上げた。
「く、くくく。貴様ら俺に喧嘩を売る気か。鍛錬不足で体が鈍っていたところだ。楽しませてもらおうか」
「何だと!?」
挑発的な言葉と余裕たっぷりのベルンハルトの態度に苛立ち、作業着の青年は飛びかかりたい衝動に駆られる。
しかし、対峙する相手の刃物のような鋭利で冷たい眼差しに、どういう訳か金縛りになってしまったように身体が動かなくなった。
人通りもほとんど無い此処ならと、今回の計画を立てた仲間で待ち合わせ場所に決めた。
ベンチの側に立つ青年は、来るのが遅い待ち人に対して段々と苛立ちだす。
気持ちを落ち着かせるために、煙草に火をつけて何度もスマートフォンの画面を確認していた。
“良い人”を演じるために飲み会では喫煙を我慢していた分、ゆっくり煙草の煙を吸い込み気持ちを落ち着かせる。
暗がりの中からようやく待ち人の姿が現れると、口にくわえていた煙草を投げ捨てた。
「おせーぞ」
髪を後ろに撫でつけた背の高い青年が、片手を上げて「悪い」と答える。
彼と一緒に来た、もう一人の作業着を着た青年がベンチに横にさせられていた佳穂を指差す。
「お前が言ってた女ってコイツで合ってる?」
「ああ」
「大毅はこんな女に恥をかかされたのかよ。笑えるー」
そうとう派手な女かと思っていたら、想像した女と酔い潰れて眠る佳穂があまりにも違うため、作業着の青年は笑い出す。
「痛めつけた写真を送ればアイツ等の機嫌も直るんだろ? だったらさ聡、早くやっちまおうぜ」
作業着の青年がポケットからスマートフォンを取り出すが、大毅は困ったような笑みを浮かべた。
「OK、って言いたいところだけどさ、何か勿体無くなってさ。前は思わなかったけど、ちょっとコイツ可愛いなって」
罰ゲームで付き合っていた時は思わなかった感情に戸惑う大毅を見た後、友人達はベンチに横になって眠る佳穂の顔を無遠慮に覗き込む。
「確かに、よく見ると可愛いな」
付け睫毛をしているような長い睫毛が頬へ影を落とし、形の良い唇と微かに上気して赤く染まった頬がやけに艶めかしいく見える。
佳穂の顔を覗き込んでいた作業着の青年は、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「飲み会で話してみたら意外と話が合って、反応も素直っていうか可愛くて俺もちょっと気に入ったんだよな」
飲み会で佳穂の隣に座り、アルコール度数の高い酒を飲ませていた聡は彼女の顔にかかる髪を指でどかす。
「おい、お前等だけで楽しむ気かよ」
「とりあえず車へ運ぼうぜ」
耳元で話していても、起きることのない佳穂を大毅は抱き起こすと公園の横に停めた車へ運ぶため、脱力した細い肩を抱えた。
数日前、久々に会った佳穂はお遊びで付き合っていた時には感じなかった色気を纏い、中学生みたいだと馬鹿にしていた童顔が何故か可愛く見えて、つい声をかけた。
後から現れた男のせいで退散する羽目になったが、邪魔されなければ言葉巧みに遊びに誘っていただろう。
さらに運悪く、声をかけていた場面を彼女であるユリの女友達に目撃されてしまい、浮気を疑われて面倒な事になった。
泣きわめくユリを納得させるため、佳穂を辱めることを約束したのだ。
この先、佳穂が自分達を訴えると騒ぎ立てても写真と動画で黙らせればいい。
これからのことを想像して大毅の口元には厭らしい笑みが浮かぶ。
「……貴様等、その女をどこに連れて行く気だ?」
何の気配も無かった暗闇から突然響いた低い男の声に、弾かれたように彼等は公園の入り口を見た。
「何だテメェ?」
突然現れた相手を睨み付けて威嚇する作業着の青年を聡が止める。
人通りがほとんど無い場所とはいえ、街中で騒ぎを起こせば通報されかねない。佳穂を抱えている大毅の前に出た聡は、人の良さそうな作り笑いを浮かべた。
「何処へと言われても、一緒に飲んでいて酔い潰れたこの子を介抱していたんだよ。今から自宅まで送ろうと思っているんだ」
彼等からは逆光になって表情が見えない相手、ベルンハルトは、彼等に肩を抱えられた佳穂に視線を向けて彼女の状態を確認して眉間に皺を寄せる。
「酔い潰れたその女は自制は出来る。それがこの有り様だということは……貴様等、わざと強い酒を飲ませたか」
怒りを滲ませるベルンハルトに気圧されて、それまで笑顔を浮かべていた聡の顔が引きつっていく。
「はぁ? お前何者だよ?」
本能が目の前に立つベルンハルトは“危険”だと警鐘をならし、思わず後退った聡の声が震える。
「アイツがこの前の、ヤバイ奴だ……」
顔色を蒼白にした大毅はゴクリと唾を飲み込んだ。
「なら丁度良い。大毅に、人のダチに恥をかかせた礼をしてやるよ」
好戦的な作業着の青年から発せられる敵意を感じ取り、ベルンハルトは口の端を吊り上げた。
「く、くくく。貴様ら俺に喧嘩を売る気か。鍛錬不足で体が鈍っていたところだ。楽しませてもらおうか」
「何だと!?」
挑発的な言葉と余裕たっぷりのベルンハルトの態度に苛立ち、作業着の青年は飛びかかりたい衝動に駆られる。
しかし、対峙する相手の刃物のような鋭利で冷たい眼差しに、どういう訳か金縛りになってしまったように身体が動かなくなった。