竜帝陛下と私の攻防戦
抱いていた感情の名に気付く
障子窓から漏れる柔らかい日差しを目蓋越しに感じて、佳穂の意識はゆっくりと覚醒していく。
内容はよく覚えていないが、変な夢をみた気がする。
未だに朦朧とする意識の中では思い出すのも面倒で、二度、先程まで寄り添って眠っていた心地良い温もりに頬を擦り寄せた。
(え? あたたかい?)
眠りに落ち掛けて、ふと疑問が頭に浮かぶ。
一人で寝ていたはずなのに、何故、隣に温もりがあるのか。
パチリ!
一気に眠気が吹き飛び、勢いよく目蓋を開く。
(えぇー!?)
叫び声は何とか堪えた。というか、吃驚しすぎて声にならなかった。
目の前には、はだけた寝間着から覗く、薄付きながら鍛えられた男性の胸元。
恐る恐る視線を上げれば、佳穂を抱き枕状態にして眠っているベルンハルトの端正な顔があった。
(なんで、どうして?)
混乱しながらも佳穂は今の状態になる前、昨晩の記憶を手繰る。
昨晩は、隣の区で開催された花火大会の花火を見上げながら縁側でベルンハルトと晩酌をしていた。
初めて飲んだ冷酒は美味しくて、それから……
『お前は月のようだな。誰に媚びる事なく、日光のように強くは無いが俺を惹きつけるやわらかな光を放つ。この惹き付けられる感情は、魔術書による干渉、心臓が繋がったせいだとは分かっている』
茹だった思考の中だったけれど、言われた台詞はしっかり覚えている。
(欲しいってどういうこと? まるで愛の告白みたいじゃない。それに、あんなキ、ス)
重なった唇と口腔内を蹂躙した熱い舌の感触を思い出し、佳穂の全身が一気に熱を持った。
悶々とするのは後にして、とりあえず閉じ込められているベルンハルトの腕の中から脱出しようともがいてみても、彼の腕は外れない。
それどころか、抱き締める腕に力がこもりさらにきつく閉じ込められてしまった。
起きているのかと、暫く見詰めても彼の目蓋は閉じたままで開かない。
起きてくれないのなら仕方がない。ベルンハルトの腕と格闘するのを諦め、まじまじと彼の顔を見上げてみる。
女性の様にキメの細かい肌に、長い睫毛が目元に影を作る。少し開いた唇が妙に生々しく見えて心臓が跳ねた。
(睫毛長いな、羨ましい。意外と寝顔は幼く見えるんだ。ちょっと可愛いかも)
不遜な態度の皇帝陛下姿は霧散して、寝姿は実年齢よりずっと幼い少年に見える。
シャープな輪郭の顔の、頬と唇は、思った以上にやわらかいのは昨夜知った。
(少しだけ、触ってみたい)
そっと手を伸ばして人差し指で頬に触れてみた。
自分の頬に比べれば少し硬い感触。
次は唇へ触れようとした佳穂の指先を、唇に触れる直前にベルンハルトの指が絡め取った。
「大胆な女だな」
狸寝入りだったのか、ベルンハルトの瞳はしっかりと開いて此方を見やる。
「お、起きて……」
「そんなに俺に触れたいのならば、今から存分に可愛がってやろうか?」
妙に艶を含んだ台詞を言いながら口の端を吊り上げて、掴んだままの指先をペロリと舐める。
指を這うようにチロリと舐める舌先のいやらしさに、佳穂の脳内は一気に沸騰していく。
「ぎいやぁー!!」
火事場の馬鹿力で、佳穂は腰に回されたベルンハルトの腕を引き剥がした。
花火大会の夜にベルンハルトが囁いた愛の告白めいた台詞は、彼が夜の雰囲気と酒に酔ったためだと思うことにした。
雰囲気に流され彼を受け入れてしまったとはいえ、初対面の最悪な状況を思い返してみれば彼との間に恋愛感情が生じるとは考えられない。
ベルンハルトと一緒に居ると胸が苦しくなって顔に熱が集中するのと、彼に触れて欲しいと思ってしまうのは、あの魔術書から精神干渉があるからだ。
たとえ、彼に惹かれているのが自分の本心だとしても、あと二日と数時間後には居なくなる人に恋をしても報われないじゃないか。
悶々と考えていた佳穂は、叔父のコレクション部屋の前で歩みを止める。
「ベルンハルトさん、ご飯ができましたよー」
息を吐いてから、襖越しに部屋の中に居るベルンハルトへ声をかけた。
内容はよく覚えていないが、変な夢をみた気がする。
未だに朦朧とする意識の中では思い出すのも面倒で、二度、先程まで寄り添って眠っていた心地良い温もりに頬を擦り寄せた。
(え? あたたかい?)
眠りに落ち掛けて、ふと疑問が頭に浮かぶ。
一人で寝ていたはずなのに、何故、隣に温もりがあるのか。
パチリ!
一気に眠気が吹き飛び、勢いよく目蓋を開く。
(えぇー!?)
叫び声は何とか堪えた。というか、吃驚しすぎて声にならなかった。
目の前には、はだけた寝間着から覗く、薄付きながら鍛えられた男性の胸元。
恐る恐る視線を上げれば、佳穂を抱き枕状態にして眠っているベルンハルトの端正な顔があった。
(なんで、どうして?)
混乱しながらも佳穂は今の状態になる前、昨晩の記憶を手繰る。
昨晩は、隣の区で開催された花火大会の花火を見上げながら縁側でベルンハルトと晩酌をしていた。
初めて飲んだ冷酒は美味しくて、それから……
『お前は月のようだな。誰に媚びる事なく、日光のように強くは無いが俺を惹きつけるやわらかな光を放つ。この惹き付けられる感情は、魔術書による干渉、心臓が繋がったせいだとは分かっている』
茹だった思考の中だったけれど、言われた台詞はしっかり覚えている。
(欲しいってどういうこと? まるで愛の告白みたいじゃない。それに、あんなキ、ス)
重なった唇と口腔内を蹂躙した熱い舌の感触を思い出し、佳穂の全身が一気に熱を持った。
悶々とするのは後にして、とりあえず閉じ込められているベルンハルトの腕の中から脱出しようともがいてみても、彼の腕は外れない。
それどころか、抱き締める腕に力がこもりさらにきつく閉じ込められてしまった。
起きているのかと、暫く見詰めても彼の目蓋は閉じたままで開かない。
起きてくれないのなら仕方がない。ベルンハルトの腕と格闘するのを諦め、まじまじと彼の顔を見上げてみる。
女性の様にキメの細かい肌に、長い睫毛が目元に影を作る。少し開いた唇が妙に生々しく見えて心臓が跳ねた。
(睫毛長いな、羨ましい。意外と寝顔は幼く見えるんだ。ちょっと可愛いかも)
不遜な態度の皇帝陛下姿は霧散して、寝姿は実年齢よりずっと幼い少年に見える。
シャープな輪郭の顔の、頬と唇は、思った以上にやわらかいのは昨夜知った。
(少しだけ、触ってみたい)
そっと手を伸ばして人差し指で頬に触れてみた。
自分の頬に比べれば少し硬い感触。
次は唇へ触れようとした佳穂の指先を、唇に触れる直前にベルンハルトの指が絡め取った。
「大胆な女だな」
狸寝入りだったのか、ベルンハルトの瞳はしっかりと開いて此方を見やる。
「お、起きて……」
「そんなに俺に触れたいのならば、今から存分に可愛がってやろうか?」
妙に艶を含んだ台詞を言いながら口の端を吊り上げて、掴んだままの指先をペロリと舐める。
指を這うようにチロリと舐める舌先のいやらしさに、佳穂の脳内は一気に沸騰していく。
「ぎいやぁー!!」
火事場の馬鹿力で、佳穂は腰に回されたベルンハルトの腕を引き剥がした。
花火大会の夜にベルンハルトが囁いた愛の告白めいた台詞は、彼が夜の雰囲気と酒に酔ったためだと思うことにした。
雰囲気に流され彼を受け入れてしまったとはいえ、初対面の最悪な状況を思い返してみれば彼との間に恋愛感情が生じるとは考えられない。
ベルンハルトと一緒に居ると胸が苦しくなって顔に熱が集中するのと、彼に触れて欲しいと思ってしまうのは、あの魔術書から精神干渉があるからだ。
たとえ、彼に惹かれているのが自分の本心だとしても、あと二日と数時間後には居なくなる人に恋をしても報われないじゃないか。
悶々と考えていた佳穂は、叔父のコレクション部屋の前で歩みを止める。
「ベルンハルトさん、ご飯ができましたよー」
息を吐いてから、襖越しに部屋の中に居るベルンハルトへ声をかけた。