竜帝陛下と私の攻防戦
蜜夜
明るい月明かりがカーテンの隙間から入り込み、常夜灯の必要がないくらい明るい室内では天井の染みがはっきりと見えて、落ち着かない気持ちになる。
日に日に満ちる月を見たくないと思ったのはいつからだろうか。
何度目かの寝返りをした佳穂は息を吐いた。
(明日は満月。明日で最後になるのね……ベルンハルトさんは、もう寝ているのかな)
冷房をかけなければ暑くて寝苦しい夜とはいえ、気が付けば明日のことばかり考えてしまっていて、布団に入る前に感じていた眠気は何故か消えてしまった。
一時間ほど前に、就寝の挨拶を交した異世界の皇帝陛下のことを思い浮かべると目の奥が痛みだす。
目尻から零れそうになる涙を堪らえようと、目元に力を入れて瞼を閉じた。
(泣いちゃ駄目。泣いたら、ベルンハルトさんに伝わっちゃう)
腹に力を込めれば佳穂の口から堪えきれない嗚咽が漏れる。
一度口から出た嗚咽は止まってくれず、堪えきれず零れ落ちた涙を手の甲で拭った。
熱帯夜の暑さで火照って汗ばむ肌と、高まる気持ちを落ち着かせるためキッチンへと向かった佳穂は、冷蔵庫から麦茶の入ったボトルを取り出す。
コップへ麦茶を注ぎ入れコクコクと飲み、はぁーと息を吐いた。
「眠れないのか」
気配も足音も無く、背後から突然かけられた声に「ぎゃあ」と悲鳴を上げかけて佳穂は大きく肩を揺らした。
「べ、ベルンハルト、さん?」
上擦った声で名前を口にして振り返ると其処には、寝間着の浴衣を開けさせたベルンハルトが気怠そうに立っていた。
「飲みますか?」
問い掛け終わる前にベルンハルトの手が伸びて、佳穂の持っていた麦茶入りのコップを取りゴクリと飲み干す。
麦茶を飲む、ただそれだけなのに窓からの月明かりに照らされた彼はいつも以上に色っぽく見え、佳穂は頬を赤らめた。
「あ、明日は満月ですね。雨は降らないみたいですし、良かったですね」
麦茶を飲み干し空になったコップをシンクへ置き、ベルンハルトは口元を手の甲で拭う。
「良かった、か。それはどうだろうな」
「なにっ」
肩を掴んだベルンハルトの手に抱き寄せられ、彼の腕の中へ捕らわれる。
何をするの、と続く言葉は最後まで発せられなかった。
声を出そうとしていた佳穂は、驚き目を見開く。
固まる佳穂の唇をベルンハルトは噛み付くように食んだ。
「んっベル、」
半開きになっていた佳穂の唇の隙間から、ベルンハルトの舌が差し込まれる。
口内へ広がるのは麦茶と彼の唾液が混じった甘い味。
ベルンハルトの舌は、固まる佳穂の舌を捕らえ絡み付く。
互いの唾液が混じり合った甘い液体が口内に溢れ、コクリと飲み込むと佳穂の体が熱を帯び出した。
翻弄するベルンハルトの舌先に拙い動きで答えれば、佳穂の体を抱き締める力が強くなる。
ちゅくちゅく、互いの舌を絡ませる音が静かな室内に響いて聞こえた。
(だめっ、抵抗しなきゃ)
一体、何をしているのかと頭の片隅で思うのに、濃厚な口付けを受けた体は甘い痺れに酔ってしまい動かない。
口付けに翻弄されている佳穂を抱き締める、ベルンハルトの手のひらが胸から腹部を撫で下ろす。その動きに不埒なものを感じ、絡まる彼の舌を噛んだ。
噛まれた痛みに目を細めたベルンハルトの舌が離れ、ようやく口内から抜け出ていく。
「はぁっ」
互いの舌先から垂れ下がる唾液の糸が切れ、佳穂の唇の端を濡らす。
上気して熱を持つ頬を一撫でして、ベルンハルトは熱い耳元へ唇を近付けた。
「甘い、な」
高まる互いの熱と彼から発せられる甘い雰囲気を感じ取り、早く押し退けなければと思う一方で、このまま流されてしまいたいという相反する思いが生じ、佳穂の脳内は混乱していた。
日に日に満ちる月を見たくないと思ったのはいつからだろうか。
何度目かの寝返りをした佳穂は息を吐いた。
(明日は満月。明日で最後になるのね……ベルンハルトさんは、もう寝ているのかな)
冷房をかけなければ暑くて寝苦しい夜とはいえ、気が付けば明日のことばかり考えてしまっていて、布団に入る前に感じていた眠気は何故か消えてしまった。
一時間ほど前に、就寝の挨拶を交した異世界の皇帝陛下のことを思い浮かべると目の奥が痛みだす。
目尻から零れそうになる涙を堪らえようと、目元に力を入れて瞼を閉じた。
(泣いちゃ駄目。泣いたら、ベルンハルトさんに伝わっちゃう)
腹に力を込めれば佳穂の口から堪えきれない嗚咽が漏れる。
一度口から出た嗚咽は止まってくれず、堪えきれず零れ落ちた涙を手の甲で拭った。
熱帯夜の暑さで火照って汗ばむ肌と、高まる気持ちを落ち着かせるためキッチンへと向かった佳穂は、冷蔵庫から麦茶の入ったボトルを取り出す。
コップへ麦茶を注ぎ入れコクコクと飲み、はぁーと息を吐いた。
「眠れないのか」
気配も足音も無く、背後から突然かけられた声に「ぎゃあ」と悲鳴を上げかけて佳穂は大きく肩を揺らした。
「べ、ベルンハルト、さん?」
上擦った声で名前を口にして振り返ると其処には、寝間着の浴衣を開けさせたベルンハルトが気怠そうに立っていた。
「飲みますか?」
問い掛け終わる前にベルンハルトの手が伸びて、佳穂の持っていた麦茶入りのコップを取りゴクリと飲み干す。
麦茶を飲む、ただそれだけなのに窓からの月明かりに照らされた彼はいつも以上に色っぽく見え、佳穂は頬を赤らめた。
「あ、明日は満月ですね。雨は降らないみたいですし、良かったですね」
麦茶を飲み干し空になったコップをシンクへ置き、ベルンハルトは口元を手の甲で拭う。
「良かった、か。それはどうだろうな」
「なにっ」
肩を掴んだベルンハルトの手に抱き寄せられ、彼の腕の中へ捕らわれる。
何をするの、と続く言葉は最後まで発せられなかった。
声を出そうとしていた佳穂は、驚き目を見開く。
固まる佳穂の唇をベルンハルトは噛み付くように食んだ。
「んっベル、」
半開きになっていた佳穂の唇の隙間から、ベルンハルトの舌が差し込まれる。
口内へ広がるのは麦茶と彼の唾液が混じった甘い味。
ベルンハルトの舌は、固まる佳穂の舌を捕らえ絡み付く。
互いの唾液が混じり合った甘い液体が口内に溢れ、コクリと飲み込むと佳穂の体が熱を帯び出した。
翻弄するベルンハルトの舌先に拙い動きで答えれば、佳穂の体を抱き締める力が強くなる。
ちゅくちゅく、互いの舌を絡ませる音が静かな室内に響いて聞こえた。
(だめっ、抵抗しなきゃ)
一体、何をしているのかと頭の片隅で思うのに、濃厚な口付けを受けた体は甘い痺れに酔ってしまい動かない。
口付けに翻弄されている佳穂を抱き締める、ベルンハルトの手のひらが胸から腹部を撫で下ろす。その動きに不埒なものを感じ、絡まる彼の舌を噛んだ。
噛まれた痛みに目を細めたベルンハルトの舌が離れ、ようやく口内から抜け出ていく。
「はぁっ」
互いの舌先から垂れ下がる唾液の糸が切れ、佳穂の唇の端を濡らす。
上気して熱を持つ頬を一撫でして、ベルンハルトは熱い耳元へ唇を近付けた。
「甘い、な」
高まる互いの熱と彼から発せられる甘い雰囲気を感じ取り、早く押し退けなければと思う一方で、このまま流されてしまいたいという相反する思いが生じ、佳穂の脳内は混乱していた。