竜帝陛下と私の攻防戦
理由の分からない期待のこもった女性からの眼差しに、嫌な予感が湧き上がってきた佳穂は口元を引きつらせた。
「神子姫って、どういうことでしょうか? それに此処は、まさか」
「……!!」
部屋の外から女性の慌てた声が聞こえ男性の声も続き、佳穂は何事かと扉を見る。
一気に騒がしくなった廊下から聞こえる声は徐々に大きくなり、此方へ近付いて来るようだった。
「あら、あら」
女性も首を動かして扉を見て、困ったように苦笑いを浮かべた。
扉の向こう側のやり取りから、数人の女性と男性が誰かを制止しているようで、制止されている誰かは彼等の声を無視して進んでいる。
「陛下っ! お待ちください!」
「邪魔をするな。下がっていろ」
廊下へ続く扉の直ぐ側から聞こえた、聞き覚えのある男性の声と「陛下」という言葉に佳穂はハッと体を揺らした。
バンッ!
勢いよく扉が開かれ、中年女性は額に手を当て溜め息を吐く。
壊れるのではないかという勢いで開いた扉と現れた人物の姿に、想定していたとはいえ佳穂は大きくて目を見開いた。
「目覚めたか」
「ベルンハルト、さん」
部屋へ飛び込んできたのは、第二釦まで外した白いシャツと黒いスラックスというラフな格好をしたベルンハルト。
吃驚して固まる佳穂へ向かって、彼は以前見たことがある情事の後を彷彿させるような、蕩けた微笑みを向けた。
「っ、」
破壊力抜群の微笑みに息を飲んだ次の瞬間、佳穂はベルンハルトの腕の中へ閉じ込められていた。
「カホ」
「ベ、ルンハルト、さん?」
「確かに生きているな」
温もりを確かめるように、ベルンハルトは佳穂の頬へ触れてから優しく抱きしめた。
恥ずかしすぎる状況で早く解放してほしいのに、彼の切なそうな声色に拒否する事など出来ない。
自分も腕を彼の背中に回した方がいいのかと一瞬悩んだ佳穂は、控え目にベルンハルトの背中に手を回してシャツを掴んだ。
「いけません陛下」
入ってきた第三者の声で佳穂はギクリと肩を揺らす。
チッ、というベルンハルトから舌打ちの音が聞こえて、佳穂は部屋に居るのは自分達だけでないことを思い出した。
いちゃいちゃの現場を見られてしまったという事実に全身真っ赤になって、ベルンハルトから離れるため身を引く。
「姫様はやっとお目覚めになったばかりです。か弱き女性に無体を働いてはいけません」
「なんだと」
ギロリと睨むベルンハルトに、全く怯むことなく女性は続ける。
「愛しい方に触れたいお気持ちは分かりますが、貴方様はもう大人です。理性を保ってくださいませ」
聞き分けの悪い息子へ言い聞かせるように言う女性に、グッと言葉に詰まったベルンハルトは横を向く。
「では、姫様お召し替えをしましょう。陛下は外へ出てお待ちください」
否とは言わせない強い口調で女性が言うと、真上からギリッと奥歯を噛み締める音が聞こえた気がした。
「……分かった」
苦虫を噛み潰したような表情で不承不承といったベルンハルトは、佳穂の頬を指先で一撫でして立ち上がる。
「お支度が出来ましたら直ぐにお声をかけますわ」
「ああ」
軽く頷き視線を動かして佳穂を見てから、ベルンハルトは部屋から出ていった。
残されたのは、ベルンハルトを上手くあしらった女性と佳穂だけ。
「あの、貴女は?」
おそるおそる佳穂が問うと、女性は厳しい表情を崩して笑みを浮かべる。
「私は、アマリエと申します。姫様付きの侍女長を任されました。これでも以前は皇帝陛下、ベルンハルト様の乳母でしたの」
「ああ、だから」
だからベルンハルトがすんなり彼女の言うことを聞いたのかと、納得する。
「ベルンハルト、さまは、母親に叱られた子どもみたいに見えたのね」
扉から出る前、もう一度振り向いた彼は不貞腐れた子どもみたいに見えて、ちょっと可愛いと思ってしまった。
「姫様、どうかベルンハルト様をよろしくお願いいたします」
慈愛に満ちた微笑みをしたアマリエは、佳穂へ向かって深々と頭を下げた。
「神子姫って、どういうことでしょうか? それに此処は、まさか」
「……!!」
部屋の外から女性の慌てた声が聞こえ男性の声も続き、佳穂は何事かと扉を見る。
一気に騒がしくなった廊下から聞こえる声は徐々に大きくなり、此方へ近付いて来るようだった。
「あら、あら」
女性も首を動かして扉を見て、困ったように苦笑いを浮かべた。
扉の向こう側のやり取りから、数人の女性と男性が誰かを制止しているようで、制止されている誰かは彼等の声を無視して進んでいる。
「陛下っ! お待ちください!」
「邪魔をするな。下がっていろ」
廊下へ続く扉の直ぐ側から聞こえた、聞き覚えのある男性の声と「陛下」という言葉に佳穂はハッと体を揺らした。
バンッ!
勢いよく扉が開かれ、中年女性は額に手を当て溜め息を吐く。
壊れるのではないかという勢いで開いた扉と現れた人物の姿に、想定していたとはいえ佳穂は大きくて目を見開いた。
「目覚めたか」
「ベルンハルト、さん」
部屋へ飛び込んできたのは、第二釦まで外した白いシャツと黒いスラックスというラフな格好をしたベルンハルト。
吃驚して固まる佳穂へ向かって、彼は以前見たことがある情事の後を彷彿させるような、蕩けた微笑みを向けた。
「っ、」
破壊力抜群の微笑みに息を飲んだ次の瞬間、佳穂はベルンハルトの腕の中へ閉じ込められていた。
「カホ」
「ベ、ルンハルト、さん?」
「確かに生きているな」
温もりを確かめるように、ベルンハルトは佳穂の頬へ触れてから優しく抱きしめた。
恥ずかしすぎる状況で早く解放してほしいのに、彼の切なそうな声色に拒否する事など出来ない。
自分も腕を彼の背中に回した方がいいのかと一瞬悩んだ佳穂は、控え目にベルンハルトの背中に手を回してシャツを掴んだ。
「いけません陛下」
入ってきた第三者の声で佳穂はギクリと肩を揺らす。
チッ、というベルンハルトから舌打ちの音が聞こえて、佳穂は部屋に居るのは自分達だけでないことを思い出した。
いちゃいちゃの現場を見られてしまったという事実に全身真っ赤になって、ベルンハルトから離れるため身を引く。
「姫様はやっとお目覚めになったばかりです。か弱き女性に無体を働いてはいけません」
「なんだと」
ギロリと睨むベルンハルトに、全く怯むことなく女性は続ける。
「愛しい方に触れたいお気持ちは分かりますが、貴方様はもう大人です。理性を保ってくださいませ」
聞き分けの悪い息子へ言い聞かせるように言う女性に、グッと言葉に詰まったベルンハルトは横を向く。
「では、姫様お召し替えをしましょう。陛下は外へ出てお待ちください」
否とは言わせない強い口調で女性が言うと、真上からギリッと奥歯を噛み締める音が聞こえた気がした。
「……分かった」
苦虫を噛み潰したような表情で不承不承といったベルンハルトは、佳穂の頬を指先で一撫でして立ち上がる。
「お支度が出来ましたら直ぐにお声をかけますわ」
「ああ」
軽く頷き視線を動かして佳穂を見てから、ベルンハルトは部屋から出ていった。
残されたのは、ベルンハルトを上手くあしらった女性と佳穂だけ。
「あの、貴女は?」
おそるおそる佳穂が問うと、女性は厳しい表情を崩して笑みを浮かべる。
「私は、アマリエと申します。姫様付きの侍女長を任されました。これでも以前は皇帝陛下、ベルンハルト様の乳母でしたの」
「ああ、だから」
だからベルンハルトがすんなり彼女の言うことを聞いたのかと、納得する。
「ベルンハルト、さまは、母親に叱られた子どもみたいに見えたのね」
扉から出る前、もう一度振り向いた彼は不貞腐れた子どもみたいに見えて、ちょっと可愛いと思ってしまった。
「姫様、どうかベルンハルト様をよろしくお願いいたします」
慈愛に満ちた微笑みをしたアマリエは、佳穂へ向かって深々と頭を下げた。