一期一会。−1−
単純で理解しやすい答えに、僕は圧倒
された。

その思いの強さと真剣な、空気に息が
詰まりそうになる。

「…強く」

手のひらを広げて、繰り返し呟く王蝶。

まるで、自分に言い聞かせているみたい。

一定のトーンで、一見何もおかしくない
はずなのに。

どうしてか、苦しげに聞こえた。

彼女の、過去には、何かがある。

これは、間違いなく彩羽ちゃんの地雷だ。

分かってて、聞いたのに。

…何か言わないと、この子が押し潰されて
しまう。

そう思うけど、結局言葉を見つけられず
にいた。

…なんて、無力なんだろう。

それからまもなくして、彩羽ちゃんは、
不機嫌そうにガタッと席を立って、
「帰る」と短く言い捨てて、バーを
去っていった。


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