一期一会。−1−
真面目な顔して言うもんだから、冗談でしょって笑い流せないし。

ほんと、困るからやめてほしい。

家の近くに着いて、足を止める。

「ここまででいい?」

これ以上、踏み込まれたくなくて。

『…はい』

言わずとして察したらしい氷室さんは、
一回頷いて、私の頭をさらっと撫でると
「またね」と笑って、踵を返して
去っていく。

前のしつこさが、綺麗サッパリ消えて
いて、唖然とする。

残された私はというと、撫でられた頭を
手で押さえていた。

いや、あの人…どこまでスマートなんだ。

ドキドキなんてしてない、してないん
だから。

この胸の高鳴りは、きっと気の所為だ。

家に帰っても、赤い頬が元に戻らなくて、
どうにか誤魔化そうと、ソウ君に電話を
かけた。

うん、一回忘れよう、頭の中から消そう。

数回コール音が続き、ソウ君が出た。

忙しいのに、ごめんね?

「もしもし?」


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