一期一会。−1−
『…ごめん、愛。

 また返事するから、今日は帰って』

…俺は、愛を選ぶわけには、いかない。

「えっ、あ、葵?」

愛をやんわりと離して、人通りの多い
安全な道まで愛を送った。

愛は、あの日みたいに目を潤ませて、
俺の顔を見上げていた。

その目は、“どうして”と、俺を確実に
非難していた。

…ごめん、愛。

“会いたい人がいる”と言って青火高校に
行くことを決めた中3の冬。

幼なじみを傷つけることは、
免れなかった。

ー「“王蝶”はなぁ、強いぞ。

  俺の弟子だが、まだ中2で
  めちゃくちゃ才能があるんだ」

壮太さんが言ったことに、俺の中の
何かが動き出す気配がして。

最初は、単なる好奇心。

気がついたら、酔っ払った壮太さんに
“王蝶”について質問しまくっていた。

それくらい、興味があった。

噂には聞いていた、“王蝶”。

“王蝶”は当時、[美郷]で目立ち始めた
存在だった。


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