一期一会。−1−
『…本気で、拷問かよ』

これで襲うなっつー方が無理なんだが。

全く、勘弁してくれ。

そう思いつつも、滅多に見れない彩羽の
レアな姿に頬が緩む。

『いい夢を…』と、囁いて、前髪をそっと
払うと額にキスを落とした。

…でも、コイツどうしよう。

家に帰したくても、住所知らねぇし。

俺の家は…いや、アウトだろ。

本気でどうしよう。

その時、彩羽のスマホが鳴った。

ポケットに入っていたのを取り出して、
着信主を見る。

…“日下壮太”か。

あの日下組の若頭。

確か、彩羽の保護者なんだよな?

誤解されるのを承知で電話に出る。

「おい、彩羽遅いぞ…って誰だ?」

声も出してないのに、悟られた。

流石、組のトップなだけある。

一気に声のトーンが下がって、底冷え
するような殺気が伝わってくる。

こわ、めっちゃ怒ってるじゃねぇか。

落ち着け、ビビるな…。

腕の中で眠る彩羽に目を落として、
息を吸う。

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