一期一会。−1−
甘く微笑んで、劇薬みたいな言葉をかけて
くる氷室さんに、恋愛経験ゼロの私は
もろ動揺。

振りかけられる言葉に、理解が追い付か
なくて困る。

いや、これ…どういうシチュエーション?

氷室さんって、人たらしか何かなの?

無自覚なの?自覚ありなの?

どっちにしろ、罪深いけど!

何故私のことを勘違いさせてくるんだ!

地味子を好んで好きになる馬鹿がいるか!

真に受けちゃだめだよ、私。

…多分、イケメンに目がない女子が
こんなことされたら一発で堕ちるだろう。

だが、私にとって、かわいいは
お世話にしか聞こえないのが悲しい。 
 
『眼科に行くことをおすすめします』

慎ましく、指摘させてもらおう!

私は恋愛の才能がないのかもしれない。

真顔のまま、つれない返事をするなんて、
乙女にあるまじき行為だと思う。

ロマンも何もない。

可愛くない返事をして機嫌でも損ねてしまったかとハラハラしている私の心配を
よそに、氷室さんは妙にニコニコしていた。

え、むしろ上機嫌??

…キレすぎて、頭おかしくなったんかな?

それとも、こんな地味女に断られても
痛くもかゆくもないって?

そりゃそうでしょうね!

一瞬怒っているのかと思ったけど、怒りのオーラが見えなくて戸惑った。

なんで、冷たくあしらわれて笑えるの?

「そういう強情さもいいね」

氷室さんは、メンタルが鋼だった。

この人といたら、嫌な予感しかしない。


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