年上のお姫さま
 
 王子様が十歳になった頃には、一流のフルール奏者と言われていた。
 とても澄んだ優しいメロディを奏で、「お前をイメージした曲だ。誰よりも気高く美しく、そして穏やかで凪いでいる」とか言ってきた。
 正直に驚いた。私はただ日々を無為に生きる捕虜でしかないのだ。
「私はそんな女ではありません」
「俺の解釈にケチを付けるな。だが、そうだな。あと頑固で凛としている雰囲気も入れないとかな。俺もまだまだだ」
 とか納得された。
「王子は私なんて不気味な年増ではなく、もっとお美しいお嬢様方のために作曲なされたらいかがですか?」
 第二、第三の妻の候補はたくさんいる。
 若くて美しい少女たちである。
 精悍に成長する王子様に曲を作って演奏してもらったら、感激して気絶する少女すらいるだろう。
 昔は私だって若くて美しいと言われていた。
 この国で段々歳を取っていく。
 普通なら王子くらいの歳の子供がいてもおかしくないのに。
 王子様は私の側に寄ってきて手を取った。
「レミリアグシュレッド・ハット・ダイラム。お前のことを、レミリアと呼んでいいか?」
 私のフルネームをちゃんと知っていたのか。
 いつも、おいとかお前とか呼ばれていた。
 王子様はとても緊張した様子で私を見ている。
 私が逆らえるような身分でないのに。
「レア、で結構ですわ」
 レミリアは祖国での愛称だ。
 この国ではミの音の次にリの音が来る言葉なんてなく発音しにくいはずなのに、王子様は流暢に呼んでくれて驚いた。
 わざわざ練習したのだろう。
「レア」
「はい」
「俺のことはロクスと呼べ」
 高貴なお方の名前を下々の者が呼ぶことは不敬とされている。
「そんな恐れ多い」
「呼べよ、レア」
「王子、私は……」
「呼んで」
 悲しそうな顔で言われた。
「ロクス……様」
「様もいらない」
「流石にそれは国王に怒られてしまいます」
「そんなことで怒らないよ。ねえ、レアぁ」
「では、二人きりの時にだけ、そう呼ばせて頂きます。……ロクス」
 王子は飛び跳ねて喜んだ。
 そんなに喜ぶようなことではないのに。
 
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