年上のお姫さま

 十二歳の時、乗馬も剣術も得意で音楽も得意なはずの王子様が、ダンスを習い始めて苦戦しているらしく、「あれは難しい……」と頭を抱えている。
 男女一組でペアになり、抱き合うように組んで音楽に合わせてステップを踏むだけた。
 この国のダンスは私の祖国のに比べれば単純である。
 私の国では、パーティー参加者一人一人がソロのダンスを披露する。あれは本当に大変だった。
 毎回違う複雑なステップを勉強しなければならないし、他の人と丸かぶりしないように祈ったりして心臓に悪かった。
 ここの国は、皆がゆったりした曲に合わせて体を揺らせるように踊る程度である。
 運動神経がよくてリズム感のあるのに、どうしてそんなに苦手なのだろう。
「ちょっと、お一人でやってみてくださいませ」
 普段から私に必死に格好付けてくる王子が、どんな無様なことをしてくれるのか。
 最近は、夜にラブロマンス小説を朗読させてきて、「このヒロインよりもレアの方が美しいだろうなぁ」とか宣う大人ぶりたい少年の子供っぽいところを見たくなった。
 王子は「わかった。レアはダンスにも詳しいのか。流石だな」とニコッと笑って、一人でステップを踏んでくれた。
 普通に上手い。ちゃんと基本通りにできている。
「問題はないように見えます。何ができないのですか?」
「相手に合わせるのがな……。先生の足を踏みまくって叱られた」
 ハイヒールの靴に動きにくい派手なドレスを着た女性は、確かに演奏よりも少しゆっくり動くだろう。
 普段キビキビ動く王子にはそれに合わせるのが困難なのだろうか。
「レア、教えてよ」
 と、手を取られた。
 そして抱き合うように組んで、優雅にステップを踏……んでいない?
 王子は真っ赤な顔をして、私から視線を逸らしているし、体の距離が遠い。
「ロクス、ダンスは相手の顔を見てするのですよ」
「だって……」
「私のような不気味な顔のババア相手でも、微笑んで踊れないようでは王子失格ですよ」
 王族は誰にでも微笑むのも仕事だ。
「ば、馬鹿言うな! レアの顔が近いから……恥ずかしいんだ」
「はい?」
「こ、こんなキスできそうな距離とか、ドキドキするに決まってるだろ? レアの胸が当たるとか、頭真っ白になる……」
 この国は胸は大きい方がいいとされて、女性たちは皆たくさん布等を詰めたりして大きく見せて、殿方とのダンスの時にわざと当てたりしてアピールするそうだ。
 私はこの国に来てからずっと地味なドレスばかりを着てきたし、胸を大きく見せる努力もしたことがない。
 化粧もせず髪は地味におさげにしている。
 そんな私にドギマギしている王子様に少しときめいた。
 こんな子供に女扱いされてときめくなど、男に飢えた下品な女のようだ。
「ロクスなら、私のような地味で色気のないババアとダンスなんてしても楽しくない、とか言うかと思いましたよ」
「レア……」
「はい」
 ぐっと体を寄せられた。
 私はヒールのない靴を履いているからか、王子様は私に合わせてゆったりとテンポ良く踊れた。
 身長を抜かされたことに気付いた。
 あんなに小さかったのに。
 王族は皆顔立ちが整っているし、この王子様も綺麗だ。
 これからもっと美男子になって世の中の女性たちを虜にするのだろう。
「なあ、明日はダンス用のドレス着て実践のダンスを教えろ」
「はあ。わかりました」
「約束だぞ!」
「はいはい」
 
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