漆黒の女帝

「お前、大丈夫なのか？」

北斗を起こした修行仲間が心配そうに顔を覗き込んでくる。北斗はゆっくりと体を起こし、「大丈夫だ」と返す。

（変な夢を見たな……）

やけにリアルな夢だった、そう起きて数分後には北斗はそう思っていた。寝巻きである浴衣から作業着に着替え、作業場へと向かう。今日も一人前になるための修行が始まるのだ。北斗は着物職人を目指している。

「北斗！！全然丁寧に織れてないぞ！！」

「すみません！！」

修行が始まり師匠から怒鳴り付けられてしまえば、もう夢のことなど考えている暇すらなかった。



その日の夜、北斗が目を覚ますと自分が眠るために師匠から与えられた部屋ではなく、果てしない暗闇が広がる見知らぬ場所だった。

「ここ、昨日夢で見た場所か？」

同じ夢を続けて見ることなどあるのだろうか。夢の内容を思い出していくと北斗の心臓がドクトクと音を立て、冷や汗が頬を伝う。

遠くから悲鳴のような声が聞こえてきた。北斗は声のする方向とは逆の方向へ体を向け、走り出す。悲鳴のする方へ行くのは危険だと思ったからだ。