仮面夫婦のはずが、冷血御曹司の激愛で懐妊いたしました
再会
 腕の中で、澪がすうすうと寝息を立てはじめたのを確認して圭一郎は安堵のため息をついた。柔らかな黒い髪に頬ずりをして彼女の香りを感じ取り、その存在を確認する。
 ようやくこの手に取り戻した。
 なにがあったかまだ詳細はわからないが、そばにいればすべて解決してやれる。
 もう絶対に離さない。
 腕の中の彼女がドイツへ経つ日の朝に抱きしめた時よりも少し痩せたように感じて、圭一郎の胸がきしりと音を立てた。
 大切な時期をひとりきりで過ごさせたことを申し訳なく思う。と、同時に彼女をここまで追い込んだものに、憎悪の感情が腹の中から沸き起このを感じていた。
 さっきドアを開けて自分を目にした時の彼女は、戸惑いの表情の中に切ないなにかを浮かべていた。ベッドにあった、寝る際に着るにして不自然な素材のウインドブレーカー。彼女からのメッセージの内容は、すべて嘘だという確信を圭一郎はさらに深めていた。
 彼女は自分の意志で家を出たわけではない。出ざるを得なかったのだ。誰かにそう仕向けられた。
 ——やはり、養子の件が絡んでいるのはまちがいない。
 でなければ、身重の身で黙って夫のもとを去るなどという事態にはならないはず。彼女と彼女の父親にとってのアキレス腱、坪井康彦が絡んでいるのは間違いない。
 ——だとしたら、こんな茶番はすぐにでも終わらせてやる。
 自分にとって唯一無二の存在を腕に抱き圭一郎は決意する。大丈夫、その力をもう自分は手に入れた。
 閉じた長いまつ毛にキスをすると、澪は少しだけ唇を動かして、でも目を開けることはなかった。
 思わず圭一郎は笑みを漏らす。はじめから彼女はこうだった。どのような状況でもよく眠り、一度眠るとなかなか起きない。
 もちろん今はつわりで眠気が増しているからでもあるだろうが……。
 圭一郎が腕に力を込めると、澪が自分の胸に気持ちよさそうに頬ずりをした。
 愛おしい、愛おしい、愛おしい澪。
 彼女との間に、新たな命を授かったことが奇跡のように嬉しかった。
 正直なところ実感はまだ湧かないが、自分自身が新たな一歩を踏み出したのをしっかりと感じている。その先は、澪とでなければ歩めない幸せな道筋だ。
「澪、愛してる」
 黒い髪にキスをすると、急な眠気に襲われる。圭一郎自身は、彼女がマンションを出てから以前のようには眠れないつらい日々が続いていた。もはや自分は、彼女のいる場所でしか眠れないようだ。
 難しい問題は必ずこの手で解決する。だがとりあえず今は、この心地のいい温もりに身を任せよう。
「おやすみ、澪」
 呟いて、圭一郎は目を閉じた。
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