公爵閣下、わたしたちの契約結婚は終了を迎えるのですね。わたしは余命わずかですが、あなたがほんとうに愛する人としあわせになれますよう心よりお祈り申し上げます
デート
結婚をする前は、どこやここやと二人で外出をしていた。わたしが「連れて行ってほしい」とアントニーにおねだりすることがほとんどだった。彼にしてみれば、わがままな幼馴染に付き合ってやっているという気持ちだったのに違いない。わたしにしてみれば、デートのつもりだったのだけれど。
だけど結婚する前、「愛する人が別にいる。だからきみを愛せないし、これは期間限定の契約結婚だ」みたいなことを言われてから、とてもではないけれど彼とどこかへ出かけるなんてことは出来なかった。
だけど、今回ばかりはそうも言っていられない。
とにかく、彼に伯父の診察を受けさせてはならない。出来るだけ診察から気をそらし、伯父から物理的に距離を置いた方がいい。
アントニーは、子どもの頃からちょっとかわっている。というのも、他の貴族子息と違って上流階級、あるいは特権階級という意識が少ないのである。それは、わたしにもあてはまる。つまり、わたしたちは二人とも、公爵子息、伯爵令嬢という自覚というか意識があまりない。
それはいまもなお続いている。アントニーは、パウエル公爵家の当主として最低限の付き合いや行動はする。だけど、基本的にはサロンや高級な店に行くよりかは街の人たちに人気の店や場所を訪れることを好む。
だからこそ、今回のわたしのわがまま放題も、表向きはにこやかにきいてくれる。
一度、マークを通してカーリーから連絡がきた。
親友の薬師の解析がまだ終わりそうにないらしい。だから、もうしばらくダミーの薬の服用と伯父の診察を控えて欲しいとのことだった。
その伝言を受け取った瞬間、うれしくなってしまった。
不謹慎としかいいようがない。
いまのこのアントニーとすごす毎日が楽しすぎる。そして、しあわせすぎる。だから、終わって欲しくない。
朝、目覚めたらワクワクどきどきし、夜眠るときには寂しさと不安でいっぱいになる。
一日でも長く続いて欲しい。彼とのひとときが永遠に続いて欲しい。
心からそう望み、願っている自分がいる。
同時に罪悪感に苛まれている。
一度も見たことのないアナベラに対して、アントニーを奪ってしまっている気がしてならない。
そのアナベラに対して、申し訳ないと思う一方で腹が立つしイライラもする。
それが嫉妬心であるということを、ある恋愛小説のシーンを読んでいて気がついた。
自分にもそんな醜い部分があったんだ。というよりかは、嫉妬なんてするんだと戸惑ってしまった。
とにかく、あと数日はこの生活が続く。
マークにカーリーへ「了承しました」との伝言を頼んだとき、笑顔にならないように注意を払わねばならなかった。
「ユイ、今日はおれに付き合ってくれないか?」
朝食を始める前、アントニーがニコニコしながら言った。
彼の顔色は、日増しによくなっていっている気がする。
庭の木々で朝の挨拶をしあっている小鳥たちの囀りをバックに、彼の低めの声が心地いい。
調子の悪いときには声がかすれたりもしていたけれど、最近は昔のようにうっとりするほどいい声になっている。
「ええ、もちろんですとも。どこに行くのかしら?」
「いまはまだ内緒だ。ランチを持って行く。きみは、動きやすい服装にしておいてくれ」
「サプライズイベント、かしら?楽しみだわ」
彼は、食欲も出ている。なにより、以前のように美味しそうに食べている。
カーリーにもらったのは、いわゆる栄養を補うサプリメントである。
それが効果を発揮しているのかしら。
どちらにしても、彼の調子がいいのはわたしにとってしあわせなことだわ。
楽しくおしゃべりしながら朝食を終え、慌ただしく準備をして屋敷を出発した。
だけど結婚する前、「愛する人が別にいる。だからきみを愛せないし、これは期間限定の契約結婚だ」みたいなことを言われてから、とてもではないけれど彼とどこかへ出かけるなんてことは出来なかった。
だけど、今回ばかりはそうも言っていられない。
とにかく、彼に伯父の診察を受けさせてはならない。出来るだけ診察から気をそらし、伯父から物理的に距離を置いた方がいい。
アントニーは、子どもの頃からちょっとかわっている。というのも、他の貴族子息と違って上流階級、あるいは特権階級という意識が少ないのである。それは、わたしにもあてはまる。つまり、わたしたちは二人とも、公爵子息、伯爵令嬢という自覚というか意識があまりない。
それはいまもなお続いている。アントニーは、パウエル公爵家の当主として最低限の付き合いや行動はする。だけど、基本的にはサロンや高級な店に行くよりかは街の人たちに人気の店や場所を訪れることを好む。
だからこそ、今回のわたしのわがまま放題も、表向きはにこやかにきいてくれる。
一度、マークを通してカーリーから連絡がきた。
親友の薬師の解析がまだ終わりそうにないらしい。だから、もうしばらくダミーの薬の服用と伯父の診察を控えて欲しいとのことだった。
その伝言を受け取った瞬間、うれしくなってしまった。
不謹慎としかいいようがない。
いまのこのアントニーとすごす毎日が楽しすぎる。そして、しあわせすぎる。だから、終わって欲しくない。
朝、目覚めたらワクワクどきどきし、夜眠るときには寂しさと不安でいっぱいになる。
一日でも長く続いて欲しい。彼とのひとときが永遠に続いて欲しい。
心からそう望み、願っている自分がいる。
同時に罪悪感に苛まれている。
一度も見たことのないアナベラに対して、アントニーを奪ってしまっている気がしてならない。
そのアナベラに対して、申し訳ないと思う一方で腹が立つしイライラもする。
それが嫉妬心であるということを、ある恋愛小説のシーンを読んでいて気がついた。
自分にもそんな醜い部分があったんだ。というよりかは、嫉妬なんてするんだと戸惑ってしまった。
とにかく、あと数日はこの生活が続く。
マークにカーリーへ「了承しました」との伝言を頼んだとき、笑顔にならないように注意を払わねばならなかった。
「ユイ、今日はおれに付き合ってくれないか?」
朝食を始める前、アントニーがニコニコしながら言った。
彼の顔色は、日増しによくなっていっている気がする。
庭の木々で朝の挨拶をしあっている小鳥たちの囀りをバックに、彼の低めの声が心地いい。
調子の悪いときには声がかすれたりもしていたけれど、最近は昔のようにうっとりするほどいい声になっている。
「ええ、もちろんですとも。どこに行くのかしら?」
「いまはまだ内緒だ。ランチを持って行く。きみは、動きやすい服装にしておいてくれ」
「サプライズイベント、かしら?楽しみだわ」
彼は、食欲も出ている。なにより、以前のように美味しそうに食べている。
カーリーにもらったのは、いわゆる栄養を補うサプリメントである。
それが効果を発揮しているのかしら。
どちらにしても、彼の調子がいいのはわたしにとってしあわせなことだわ。
楽しくおしゃべりしながら朝食を終え、慌ただしく準備をして屋敷を出発した。