ヒロイン覚醒要員である黒幕お父様の暴走を阻止します 〜死なないために愛嬌を振りまいていたら、不器用な愛情過多がとまりません〜
もふもふとした手触りのそれは、クリストファーのマントだった。
見るからに高級そうなマントは、肌に当たると鳥肌が立つくらい柔らかくて、それでいて艶々している。
私の体がすっぽりと入ってもまだ余裕のある大きなマントを、何を思ったのかクリストファーは貸してくれたのだ。
「お父様、ありがとう。これ、あたたかいね」
「……、だろうな」
もっこもっこと身動きが取れないままクリストファーにお礼を言えば、ふっと鼻で笑われる。
笑っているというには表情筋が死んでいるけれど、たぶん今のはそれと似た感じだと思う。
私が雪だるまのようになっているから、愉快に思ったのかもしれない。
絶対そうだ。防寒はバッチリだけど、傍から見るとこの格好……丸々としていてかなり間抜けだから。
「お父様の匂いがする、いい匂い〜」
「……これ見よがしに嗅ぐのはよせ」
帰り道の馬車の中。私がいくら鼻をスンスンさせていても、クリストファーがマントを取り上げることはなかった。