ヒロイン覚醒要員である黒幕お父様の暴走を阻止します 〜死なないために愛嬌を振りまいていたら、不器用な愛情過多がとまりません〜
「アリア……って、もしかして、アリアお嬢様?」
「わたしのこと、知ってるの?」
「知ってるもなにも……大変失礼しました」
美少年は素早く片膝をついて跪く。
わたしは慌てて立ち上がるように彼の腕を引っ張る。
「床、冷たいよ。いいよ、つかなくて」
ぐいぐいと立たせると、美少年はさらに瞬きをした。
「アリアお嬢様、初めてお目にかかります。俺はグランツフィル騎士団所属のゼノと申します」
なんとこの美少年は騎士団の人間だった。
私よりは年上だろうけど、それでもかなり幼く感じる。これぐらいの子供でも騎士団に入れるという事実に驚いた。
「ゼノは、何歳?」
「8歳です」
たまげた、まだ一桁だった。
「リデルの歌声」でアリアは第一章で初めてできたリデルの友達だけど、アリアの身辺は詳しく描写されていなかった気がする。
だから、このゼノという美少年がストーリーの中にいたのかも不明だ。
「8歳で騎士になれるの?」
「まだなれません。俺は見習いですから」
「へえ。それでもすごい。ゼノはすごいね」
詳しくは知らないが素直に凄いと思ったので心のままに言った。ゼノはほんの少し眉尻を下げて控えめに笑っている。
「アリアお嬢様。本を探しにきたと言っていましたが、どうしてこんな夜におひとりで?」
ゼノの最もな意見に何も言えなくなる。5歳児が夜にうろついていたら、誰だってどうしたのかと思うだろう。8歳のゼノも大概だけれど。
「おやつの後にたくさん寝たから、眠れないの。だから、来ただけだよ」
「そうですか……では、お供してもよろしいですか?」
「えっ」
放っておく選択はないようで、ゼノはそう提案してくる。
正直一人で書庫を回りたかったので、思わず渋い声を出してしまった。
「なにか、都合が悪かったでしょうか?」
「ううん、悪くは……ないけど」
うまい返しが出てこず、結局私はゼノと書庫を回ることになった。
思いもよらない出会いだが、魔力で発光するランプを持っていたのはありがたい。おかげで暗い書庫もすいすい歩ける。
「本を見つけ終わりましたら、部屋までお送りします」
「うん、わかった」
初対面だけど、ゼノはとても親切だ。そのショールだけでは寒いからと、自分の上着まで貸してくれるなんて。
しかし、私のことがわかるのなら、クリストファーにどんな扱いを受けているのかも知っているのでは。
大丈夫かな、関わったりして。
シェリーみたいに私の世話役を任されている人以外は、あまり私に関わろうとはしないのに。