ヒロイン覚醒要員である黒幕お父様の暴走を阻止します 〜死なないために愛嬌を振りまいていたら、不器用な愛情過多がとまりません〜
「よくないって、どんなふうに……?」
不安になりながら聞いてみる。
サルヴァドールは少し考えたあとで口を開いた。
「目をつけた人間に憑いた悪魔が、契約を持ちかけるタイミングはいつだと思う?」
「前に、弱みを絶対的なものしてからって」
「そうだ。その弱みってやつは、言い換えるとなんだかわかるか」
またしても質問が返ってくる。
正直なところ『リデルの歌声』の内容を知ってはいるけれど、詳細を逐一正確に覚えているわけじゃない。
今更だけど悪魔の契約に関しても頭から抜けていることが多く、サルヴァドールの問いに自信を持って答えることができなかった。
「答えは、執着だ」
「執着?」
「人間によって執着は異なるが、お前の父親の場合は、結構わかりやすいよな」
「それってもしかして……お母様?」
正解と言いたげに、サルヴァドールは頷いてみせた。
「姑息で知恵が回る悪魔ほど、それをうまく精神に入れ込みやがる。見たところあいつの姉に対する執着は、主に幼少期の記憶が軸になって影響されているらしい」
次から次へと出てくる情報は、病み上がりの頭には堪える。少し整理させてほしい。
「小さい頃の記憶が軸っていうのは、ええと?」
「……あー、つまり。あいつに取り憑いた悪魔は、姉の存在だけが支えだった幼少の記憶に狙いを定め、それを精神に落とし込んで確固たる執着にしようとしてるってことだよ」
サルヴァドールの説明を受け、私はようやく納得した。
シナリオ通りならば、クリストファーは弱みに付け込まれて最終的に悪魔と契約を交わしてしまう。
クリストファーの絶対的な弱み。
それは強い執着であり、お母様のこと。
そして今クリストファーは、彼と契約を結びたい悪魔の企みによって、幼少の記憶が大きく精神に影響されてしまっているのだ。
サルヴァドールが言っている「よくない状態」というのは、そういうことだった。