ヒロイン覚醒要員である黒幕お父様の暴走を阻止します 〜死なないために愛嬌を振りまいていたら、不器用な愛情過多がとまりません〜

温室と陰口



 模擬戦が一通り終了し、訓練風景や騎士団内の見学を終えたあと、私たちはジェイドに連れられて近くの温室に来ていた。

 ちょうどおやつの時間だということで、今日はここでティータイムでもどうかと提案を受ける。
 それに頷くとジェイドは準備をしてくると言って一度温室から出ていった。

(……まだゼノクスって決まったわけじゃないけど、それにしても見た目がピッタリ合ってるよね。片目は、まだあったけど)

 模擬戦の途中から、頭の片隅でそのことばかりを考えてしまっていた。

 何せ本当にゼノが、あのゼノクスだというのなら、彼は後にヒーローと敵対することになるのだ。

(仮にゼノがゼノクスの場合、どうしてグランツフィル騎士団にいるんだろう?)

 確かゼノクスは、皇太子の失脚を目論む反皇室派の筆頭、傍系一族のハイドン公爵家で身を隠していたはず。

 グランツフィル騎士団にいたなんて話、シナリオに出てきただろうか。

(ゼノクスが公爵家に引き取られる経緯も結構あっさりとしか語られなかったよね。元々身を寄せていた場所に居られなくなって、皇都の裏街をさまよっていたところをハイドン公爵が――)

 そこで、私はようやく気づいた。

(もしかしてゼノクスが"元々身を寄せていた場所"っていうのが、ここなんじゃない……!?)

 そうすれば本編にも繋がってくる。
 シナリオ通りに進んでクリストファーが死んでしまえば、当然グランツフィル公爵家や騎士団も取り潰しになる可能性が大だ。

 そしてゼノクスは住む場所がなくなり、皇都へ行くという筋書きが見事出来上がる。

(……じゃあ、やっぱりゼノがゼノクスかもしれない疑惑が濃厚じゃない? 未来でヒーローギルバートと敵対する人がこんなところにいるなんて、どんな巡り合わせなの)

 いや、巡り合わせじゃなくて、これもそうなるべくして示し合わされた設定なのかな。

(だけどこれじゃあクリストファーがシナリオ通りに暴走して死なないと成り立たないよね? でも私、シナリオ通りに成り立たせるつもりなんてないもの)

 そろそろ情報が渋滞してきたので、ちょっと落ち着こう。
 
(……ん?)

 ふうっと息を吐いたところで、視線を感じた私は何気なく横を向いた。

「いやー、すごい見事な百面相だったね」

 そこには感心した様子でいるルザークがおり、私は彼が一緒にいたことを今の今まですっかり忘れていた。


< 84 / 106 >

この作品をシェア

pagetop