22時からはじまる恋物語
何とか授業をこなし、最後の生徒を見送り、報告書をまとめる。
楠木君は後ろの方でそつなく授業をこなし、たまに聞こえる落ち着いた彼の声に、戸惑っているのは斜め前の席のわたしばかりで。
それでも集中力を切らさずに授業を進行できた自分を小さく褒める。
「いやー、なかなかすごいのが来たね」
隣で同じく報告書をまとめている有田先生が興味津々な目を向けているのは、室長に授業報告をしている楠木君。
長い髪をキュッとキツめに結び、板についたスーツ姿の有田先生は、今年四年生の一年先輩だ。
「あの顔面横にいたら、確かに授業もままならないわ」
「そんなこと言いながら、完璧じゃないですか報告書」
「落ち着いてなかったのは桜井ちゃんでしょ」
「うっ、す、すみません」
ひひっと笑い、まとめた報告書を手にして立ち去る有田先生。
わたしをからかいながらも、楠木君の横を通る彼女の頬が少し赤くなったのを、わたしは見逃さなかった。
...うん、そうだよね。
それが当然の女子の反応だわ。
好きな人がいようが、彼氏がいようが、美しいもんは美しい。
楠木君に頬を染める有田先生も、ちゃっかりこの時間のバイト終わりには、年上の彼氏が車で迎えに来てるのだ。
え、わたし?
迎えに来てもらったことなんて、ないですが?