22時からはじまる恋物語
「お疲れ様でしたー...」
自分の自虐思考に落ち込みながら、教室を後にする。
ふわっと感じる夜の空気が、少しだけ夏の色を帯び出した。
念の為いつもカバンにはストールを用意しているけれど、今日は必要なさそうだ。
教室のあるビルの階段を降り、信号前で立ち止まる。
行き交う車のライトに照らされながら、そうか、今日は高崎君がいないんだ、と思う。
塾のバイトを始めた時から、高崎君とは大抵シフトが被っていた。
有田先生よりも先輩なのだけど、高崎君は先輩風を吹かせるのが苦手で、講師全員に君付けで名前を呼ばせている。
さすがに若い講師達は敬語を使うけど、いつの間にかわたしはタメ語になっていた。
そんな親しみやすさを、彼は持っている。
高崎君のいない帰り道が少し新鮮で、ほんの少し、寂しい。
と同時に、ふと、楠木君のことを思い出した。
そう言えば、彼も電車だと言っていた。
男の子とは言え、一応まだ高校生。
この時間、1人で帰らせていいのかな?
...いや、遅くなる時は室長が送るって言ってたか。
わたしが出た時はまだ教室にいた楠木君。
きっと室長の仕事が終わるまで待って、送ってもらうのだろう。
そう勝手に安心して、青に変わった信号を渡ろうとした。
その時だった。