22時からはじまる恋物語
「ここ笑うところ〜!」と言いながら、ズキンと傷む胸。
室長も、高崎君も、頼まれたとは言え楠木君も。
夜道を1人で帰らせることをちゃんと気にしてくれていて。
でも、1番気にして欲しい人は、連絡ひとつ、くれない。
あの浮気旅行以来、LINEの返信も今まで以上にそっけない。
これはもう、本格的に、覚悟しなきゃいけないのかな。
じわっと目頭が熱くなるのを感じて、思わず誤魔化す様にストールを鞄から出した。
「寒いですか?」
「あ、うん、ちょっとね。この時間になると、少しだけ冷えるよね。もう大丈夫かもしれないけど、寒くなりそうな時は楠木君も、パーカーとか持ってきたらいいよ」
胸の内とは裏腹に、明るく話題を逸らす。
そのまま、塾の話題に戻そうとしたけど。
「...夜道は確かに心配ですけど、毎回迎えに来てくれる彼氏も、結構レアだと思いますよ」
そう言いながら、少しだけ目線をこっちに寄越す。
切長の目元は、夜の空気の中でも、ちゃんと綺麗。
「よっぽど惚れてなきゃ、無理です」