22時からはじまる恋物語
トラックが走り抜け、タイヤの音が遠くまで響いている。
『よっぽど、惚れてなきゃ。』
...わかってる。わかってます。
わたしはそんなに、愛されてないことくらい。
「...傷口、抉るね〜」
ははっと乾いた笑いをしたわたしの方を、楠木君は少しだけ驚いた表情で見た。
楠木君の表情が変わるの、初めて見たかも。
「...いや、あの」
「わかってるわかってる〜!そうだよね、有田先生の彼氏がレアキャラかぁ!」
そんな風に言いながら、ふと、思考の視点が変わった。
『毎回迎えに来る彼氏の方が、レアだと思います』
...待って。もしかして楠木君。
チラッと横目で彼を見たけど、もうその顔はわたしの方を向いてはいない。
表情の読み取りにくい綺麗な横顔だけど、少しだけ、困ってそうな気がした。
...フォローして、くれたのかな。
決してコミュニケーションが得意そうではない楠木君。
でも精一杯、わたしの自虐ネタに優しさで返してくれたのかもしれない。