22時からはじまる恋物語

「大西さんは古文もだいぶ定着してるし、夏期講習は古文のコマ数を少し減らして数学に回した方がいいかと思います。現文も得意だし、この夏は苦手意識の高い数学の文章題を得意に変えてあげたらどうかなって。
あと、古谷君は夏で部活も終わるから、今年は夏期講習取れるかもって言ってました。例年コマ数増やさないけど、今年はいけるんじゃないかな。英語中心に提案してみようかと思います」

今日の報告書を提出しながら、担当の生徒達の情報を室長に伝える。
勉強の進度や本人の希望する進路を見据えながら、夏期講習の内容を煮詰めていく時期だ。

「...うん。わかった。さすが桜井先生、完璧だね。安心して任せられる」

室長の言葉に、ほっと安堵の息をつく。
今年の高校受験組は、わたしが初めて担当を持った生徒達。
中1の頃からずっと見ているから、愛着も一入だ。

「いい感じに生徒数も伸びてきてるからな。なぜか今年は中3だけじゃなく高校生の入塾率も高いんだよなぁ。桜井、高校文系はいけるよな?」

ニヤッと経営者の顔を向ける室長に、今安堵した表情が曇った。

「いけます...けど、」
「んじゃ、ちょっと担当生徒増やすな〜。いやー何でだろうなぁ、女の子率も高いわけよ。男性講師より女性講師の方がやりやすいだろうしなぁ」

「なんでだろうなぁ」なんて、わざとらしい。
理由は明確だ。というか、それを狙ってたんでしょ。

「室長、終わりました」
「おぉ!翔、お疲れさん!」

すっと横に立った横顔は、相変わらず完璧な美しさ。

「桜井先生、報告終わりました?」
「あ、うん。変わるね」
「ありがとうございます。講師席で待っててください」

待っててください、なんて、ちょっと意味深。
...なーんて、ちょっと前ならドキッとしてたけど、もう随分慣れた。

彼が突然新人塾講師として現れてから、早1ヶ月。
この綺麗な顔立ちにも、随分耐性がついてきた。

塾側がだんだん彼の存在に慣れてきた頃から、予想通り彼目当ての新しい生徒が増えてきた。
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