22時からはじまる恋物語

生徒数が増えると必然的に、バイトのコマ数も増えるわけで。
大学3年。本来なら就活でバイトをセーブする時期なのだろうけど、わたしは教職を視野に入れているので、一般の就活組とは少し違う。
本格的に教育実習や採用試験が入ってくるのが4年。塾側としてもありがたい、比較的シフトに入りやすい3年生なのだ。

塾講師の仕事は好きだ。
幼い頃からずっと「先生」になりたかったけれど、今は「先生」というより、子ども達の教育に携わりたい気持ちが強い。

学校の先生だけでなく、こうした塾の仕事もいいなぁ、なんて、まだまだお気楽に考えている最中だった。

ボールペンをクルクル回しながら、担当生徒達に使う夏期講習用の教材研究をしていると、「お待たせしました」と高い位置から声が届いた。

「あ、お疲れ様」
「帰りましょうか」

楠木君は荷物をまとめて、さっとテーブルの上を片付ける。
隅に綺麗にまとめられたプリントを見ながら、抜け目がないなぁと改めて感心する。

仕事もできるし、さり気ない気遣いもできる。
相変わらず口数はそんなに多くないし、場を盛り上げる様なコミュニケーション力は比較的低い気はするけど(場の視線を集めるのは高いだけど)、誰も見ていないところでも気付いたことはやるタイプ。

益々、高校生ということを忘れてしまう。
階段を降りるスッと高い背中を見ながら、「高校生、だよなぁ」と改めて意識に植え付けた。

< 22 / 40 >

この作品をシェア

pagetop