22時からはじまる恋物語
「なんで?なんで今更?だってさ、ずっと浮気してたじゃん。今回に限ったことじゃないじゃん。そりゃ、さすがに今回はちょっと酷いなって、つい言っちゃったけど。でもさ、わたし今まで、何も言わなかったよね。これからも別に言わないよ。だから、今更別れるなんて.....」
「好きなんだ」
わたしの必死な醜い懇願を、太一の声が遮った。
いつ、言われただろう。わたしは、その言葉を。
「......好きなんだ。今の、相手。本気なんだ。俺も、ちゃんとしようって。このままじゃダメだって。だから......ごめん。ごめん、ほんと。最低だと思ってる。でも......ごめん。環奈とは、もう続けられない」
......あぁ。
なんて、残酷な宣告なんだろう。
わかってた。これ以上続けられないことも、もうすぐ別れが訪れることも。
しがみついてみても無理だって、目の前の彼の表情で十分理解していた。
でも。
『本気なんだ。』
......それを言われるとは、思わなかったな。
「環奈、ほんと、」
「わかった」
これ以上、声を聞きたくない。
「わかった。別れよう。おしまい」
「環奈......」
「わかったから。もう......もう、帰って」
信号が、青に変わる。
なんていいタイミング。
お願い。これ以上わたしに、声を聞かせないで。
目の前に、いないで。
「......ごめん」
言い訳も何もせず、一言落として、太一は背を向けた。
点滅し出した青信号に足を早め、赤に変わったその後は、ただ少ない車が通り過ぎるだけ。
途切れ途切れのタイヤの音を、ただ宙を見つめながら、聞き続けていた。