22時からはじまる恋物語

たった今まで、「1人」だったわたし。
ペリッと剥がれたみたいに周りがいなくなって、目の前に開かれている深夜のドアを開けた様な、そんな気持ちに襲われていた。

1人で歩かなきゃ。
そう思った先に、待っていてくれた。


待っていて、くれたんだ。


「......ふ、うぅ、うわぁん!」
「え!?ちょ、せんせ......」
「ごめんねぇ、あ、あり.......うぇー」
「あ、蟻!?」

戸惑う楠木君を前に、わたしは堰を切った様に泣きじゃくった。

子どもの様に涙を流す先輩講師。
いや、ほんと、ごめん以外の何者でもない。

楠木君はどうしたもんかと戸惑っていたが、やがてふぅっとため息をつき、そっとタオルハンカチを差し出した。

「すみません、ベタで」
「うぅ、ありがとうー」

遠慮なく受け取り、涙でぐしょぐしょな顔を覆う。

ごめん、楠木君。
君が戸惑ってることも、困った顔をしていることも、よくわかってる。

でも今だけは。

......今だけは少しだけ、甘えさせて。





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