22時からはじまる恋物語
泣くだけ泣いてようやく落ち着いたわたしは、とぼとぼと駅までの道のりを歩く。
隣に並ぶ楠木君は、わたしが落ち着くまでずっと、ガードレールに腰掛けて待っていてくれた。
ハンカチを差し出す以外、慰める言葉も何もなかったけれど。
でもその優しさは、十分に感じ取れた。
「......ごめんね、ほんと、遅くまで付き合わせちゃって」
「いや、大丈夫っす」
「あはは、なんかもう笑えるね。この前振られそうーって話してたのに、目の前であっさり振られちゃったよ」
から元気なのは伝わっているだろうが、それでもなるべく明るく笑う。
「浮気もさ、わたしが本命ならそれでいいって、勝手に思ってたけど。蓋開けたら、本命でもなかったみたい。なんだったんだろうね、わたし達が過ごした時間って」
太一の声を思い出し、過ごした時間が甦り、枯れたと思った涙がまたじんわりと浮かんできた。
思い出全てが黒く塗りつぶされることだけは、避けたかった。