22時からはじまる恋物語
「って、ごめんね。先輩からこんな話、困るよね」
「いや......すみません。俺、気の利いたこととか言えなくて」
わたしが喋れば喋るほど楠木君に居心地の悪さを与えてしまう気がして、もうしばらく黙ろうと反省した時、彼が珍しく会話を続けた。
「なんつーか......俺、桜井先生の恋愛事情とか全然知らないし、聞かされたところで大した反応も感想も出てこないんすけど......」
「お、おぉ。そうだね、間違いないね」
なかなかに素直な楠木君の言葉に、苦笑い。
「まぁ、でも、だからこそ気にせず、吐き出してもらってもいいとは思います」
「え?」
「聞き役くらいなら、いつでも。どうせ帰り道、一緒ですから」
ぽりぽりと頭をかく楠木君の姿は、なかなかレアで。
言葉選びは上手いとは言えないけれど、その不器用な優しさは、わたしの頬を自然に緩めさせた。
......なるほど。これは彼なりに、慰めてくれてるんだな。
そう思うと、さっきまでのから元気ではなく、本当にふっと笑顔が出てきた。