22時からはじまる恋物語
「じゃあ、お疲れ様でした」
先に終わった高崎君を待たせていることもあり、ペコリとお辞儀をして上がろうとした時だった。
カタン。
静まりかえっていた教室のパーテーションの奥から、椅子の音。
...え?生徒みんな、帰ったよね?
ドキッとして振り向いた先に見えたのは、見慣れた附属高校のブレザー。
うちの生徒にも数名いたと思う。
でもその顔は、全くもって見覚えのないもので。
サラサラの黒髪も、スッと伸びた切長の目元や鼻筋も、前髪の隙間から覗く形のいい眉も。
全然、見たことない。
こんな、綺麗な男の子なんて。
...人生で初めて見たかも、こんなに整った顔。
その視線がスッとわたしの方に向き、目があった瞬間、まるで少女漫画のように顔を真っ赤にして目を逸らしてしまった。
いや、いやいやいやいや。
ちょ、落ち着け環奈。
あんた今何歳?20歳だよ?
相手、高校生だから。生徒だから!!
真っ赤な顔のわたしを叱責する頭の中のもう1人のわたし。
そんなパニック真っ最中のわたしとは正反対な、落ち着いた声が届いた。
「先生、書き終わりました」
静かな教室に響くその声を聞いて、声まで綺麗なんだなって、まとまらない思考の中で思う。