22時からはじまる恋物語
「高崎には言っておいたけど、翔は来週から、ここの講師として働くことになってるから。よろしくな!」
「へ!?」
自分の余りに間抜けな声にも驚いたが、それ以上に驚く新事実。
え?講師として?え???
「え...え?だ、だって彼、高校生...」
「そう、K大附属高だから、受験生とは言えほぼ決まった様なもんだからな。暇そうだったし、特例で来てもらうことになった」
「ちょ、それ、いいんですか?だって講師って普通大学生以上で...」
「あー、こいつは例外。生徒として来てた頃から別の生徒の勉強見てたりしてて、講師なのか生徒なのかよくわかんなかったんだよ」
つ、つまり、めちゃくちゃ賢いってこと?
カラカラと笑う室長と高崎君の横で、静かに立っている楠木翔君とやらの制服は、確かに賢さの象徴の様な学校のもので。
「いや、でも頭いいかと教えることではまた...」
「それがさ、翔がいた頃の中学生達が今年受験で、どうしても翔に講師として担当してもらいたいって保護者共々要望が絶えないのよ。しかも中にはすでに辞めちゃってる子達もいてな」
「翔に担当してもらえるなら戻ってくるって言うからさ〜」と笑う室長の顔は、紛いもない経営者の顔。
夏に向けて生徒獲得に火花を散らす時期になる今、そうした出戻りの生徒は喉から手が出る程ありがたい。